「咲かない桜の桜守」
第五章

咲かない桜の桜守 34

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「平家桜は観光資源と割り切るのなら、これ以上、桜の姿を損なうべきではないでしょう。
ですが、桜は観光資源であると同時に命です。生きています。
今ここで大鉈をふるえば、私達の次世代の春を平家桜はかつての姿で、
彩ってくれるようになる。だから私は治療を諦めきれません。
放置すれば枯死すると、わかっているのに見捨てる事はできません」  

切々と哀訴する松田の横顔は樹木医としての信念と、
人としての生きざまを吐露していた。
それでも、恐ろしくひたむきな松田の懇願に応える村民はいなかった。
羽太は松田の横顔を仰ぎ見た。
松田は毅然として前を向き、どんな問責にも耐えている。

一方、それまで松田をやり玉にあげていた村民は、はっとしたように口を噤み、
気まずげに視線を泳がせる。
先刻までの気勢が潮のように引いていき、
亀のように首をすくめ、互いの顔色を窺い合い、互いの出方を
牽制し合っている。少なくとも羽太にはそう見える。
そして自分もそんな腰の引けた村民の一人だった。 

そんな自分達から平家桜を守るため、身を挺して盾になり、
千の矢でも受ける覚悟でいる。もの言わぬ桜の最後の砦になっている。
羽太は自分の両膝を握りしめた。
それなのに積み上げた八百年の歳月に固執して、惜しがって、
前に進む事も退く事もできずにいる。
人間のエゴで枯死させられかけた桜をまた、自分達が人間のエゴで見捨てるのか。
それだけはしてはならないと、あんなに誓ったはずなのに。
それを全部松田ひとりに押しつけて、自分は掌を返している。
羽太は自分に問いかけた。
情けないと思わないのか。恥を知れ。
三浦家の当主なら当主として、自分にもするべき事があるはずだ。
羽太の胸に、ひとつの決意が芽生えていた。

要は平家桜が支幹を切り落とされ、
姿形は凡庸な老桜にすぎなくなってしまっても、過疎村の観光資源としての
役割を損なわなければいいはずだ。
そうすれば、松田の治療に異議を唱える村民も説得できるかもしれない。


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