「咲かない桜の桜守」
第五章

咲かない桜の桜守 33

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松田のスーツの襟を掴み、揺さぶりたい衝動に猛烈に襲われた。
そして、唐突に羽太は気がついた。
どうして松田がその事を自分に言わずにいたのかも。

言えるわけがないからだ。
弱った桜に日本の酷暑を越えさせるには、支幹をほとんど伐採し、
主幹と根だけにするしかない。
樹齢八百年の古木の桜を丸裸にするなんて、納得できるわけがない。
受け入れられるわけがない。
だから松田は言わなかった。
代々桜を守ってきた三浦家の当主だからこそ、自分にはそれが言えずにいた。

羽太は腿の上で拳を固く握りしめた。
涙を堪えているだけで精一杯だ。口を開けば涙も一緒に零れ落ちてしまうだろう。
松田を責めてしまうだろう。
たとえどんなに酷な決断でも、代々桜を守ってきた三浦家当主の自分には、
誰よりも先に打ち明けて欲しかった。
順番が違うんじゃないのかと、どうしようもなく腹が立つ。
自分は松田にそんなにも軽く見られていたのかと、疑いたくなる。
詰め寄りたくなる自分を懸命に押し留め、
羽太は虚空を睨んでいた。隣で話し続ける松田を視界から閉めだして、
身動ぎもしなかった。

「平家桜に携わるそれぞれの方に、それぞれの意見があると思います。
私も樹木医ですから、患者の桜を助けるにはどうしたらいいのかを
考えます。私と皆さんと、それぞれ意見が違うのは、
それぞれの立場が違うからでしょう。
ですが、ここいいる皆さんは何とかして平家桜を助けたいと思っている。
枯らしたくないと思っている。その気持ちだけは同じです。私もそう思っています」

粛然と語る松田の声は大きくはなかったが、怯んでもいなかった。
それでいて対立相手を何とかして言い包め、
勝とうとする意気込みや暴力の響きも感じない。
今の松田には、患者の桜にするべき事をするという樹木医の
使命感しかないはずだ。
伏し目がちに聞き流していた松田の声音が羽太を少しだけ動かした。


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