「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト34

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「……そんなことより今日お前、暇?」
 こちらが就寝するのを確かめてから帰ったことを吐露してしまったバツの悪さを顔ににじませ、陽介がぶっきらぼうに聞いてくる。
「だから、別に暇じゃありませんけど何ですか?」 
「綾さんが新酒を使った新メニュー、考えたから試食してくれって」         
「わかりました。今日はお昼頃なら大丈夫です」   
「じゃあ、十二時に綾さんとこな」      
 陽介は猛の肩を軽くはたき、今来た道を戻り始めた。

「陽介さん」                 
 それだけのことで朝っぱらから来たのかと、拍子抜けして呼び止める。猛が声を張った途端、つくばいで喉を潤していた雀や鳩が羽撃いて去る。     
「そんなのメールか電話でいいですよ。何も家まで来なくても」        
 彦坂旅館は陽介の事務所の対極にある。急な坂道を行き来するのも大変だろうと気遣った。しかし、陽介は裏門近くで振り返り、気負いのない声で猛に訊ねる。
「いちいち来たら駄目なわけ? 顔が見たかっただけなんだけど」
「えっ……?」
「メールや電話じゃ、わかんねえだろ? 今日はお前、顔色悪いなとかヘコんでるなとか。今日は機嫌悪いなとか」    
 清爽な木漏れ日を浴びながら、ごく淡々と陽介が答える。虚を突かれたまま立ち尽くしている猛を横目に捉えると、瓦葺きの門をくぐり、細い路地へと姿を消した。

 唐突に一人取り残されて、猛は俯き唇を噛む。
 早くしないと遅刻すると思っているのに、足が竦んで動けなかった。

 『お前の顔を見に来た』なんて、女慣れした陽介のことだ。きっと誰にでも言っているに違いない。なのに、あっけなく早鐘をうつ胸の鼓動をどうすることもできずにいた。    

 けれども、陽介が最初から口八丁手八丁で自分に経営再建契約まで結ばせた人タラシだということも、身に染みてよく理解している。やはり昨夜のキスも、こういうスキンシップの範疇だろうと、猛は陽介に叩かれた肩に手をかけた。
 そうして自分を戒めながら、急速に陽介に傾いていく自分を必死に押し止めていた。


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