「咲かない桜の桜守」
第三章

咲かない桜の桜守 22

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まろやかな声で説きつけられ、にじんだ涙も引っ込んだ。
と同時に、通話も切られてしまった羽太は、棒杭みたいにぽかんとなる。
それでも、ぶっきら棒で一方的な態度のベールに包まれた、
松田なりの情や厚意が透けて見えるようだった。

「……明日、松田さんが来てくれるってさ」
羽太は桜の幹に手をあてて、荒れた表皮を撫でつけながら語りかけた。 
素人の自分が根付ぎ作業に関わったせいで、
桜を弱らせてしまったかもしれないと、不安が怒涛のように
押し寄せる。羽太は桜の幹に額を押しつけ、目を閉じた。
だけど、松田が来てくれるなら大丈夫。
あちこち剪定された枝々を夜風に揺らすを老桜も、
安堵の笑みを浮かべたように羽太には見えた。


その翌日の夕方は、職場から乾山に羽太は車で直行した。
早春の山間は日暮れも早く、車を向かわせる西方向の山際も
茜色に染まっていた。
程なく到着した乾山公園の駐車場にも公園にも外灯が点され、
人の気配を感じさせた。
外灯を点しておいてくれるよう、村役場に頼んだのは羽太自身だ。
その駐車場には、もう見慣れてしまった松田の車と、
そして、もう一台ワゴン車が停まっていた。

松田が助手か誰かを同行して来たのだろうか。
羽太はその無人のワゴン車に一瞥をくれ、駐車場から公園に続く
階段を駆け下りた。

「松田さんっ!」            
外灯の白い光が等間隔で照らす遊歩道を走りながら、
羽太は性急に声を張りあげる。
その羽太の声が宵闇の園内に響き渡り、桜の根元で長身の黒影が身を起こす。
また、桜のまわりに張りめぐらされた綱の外に、
数人の人影も確認できる。
そのうちの一人が羽太に気づいたように手を止めて、
頭の上に掲げた片手を振っていた。

「三浦君、お疲れ様」
朗らかに返してきたのは作業着姿の小泉だ。
羽太は歓喜に輝かせていたその顔を、戸惑いの色に変化させる。



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