「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト33

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 別棟の住居棟から本館に続く敷石道にカエデの落葉が降りこぼれている。

 棟の広縁近くに池を設け、その背景に使われた落葉樹の植え込みと大小の庭石。築山に滝をかけた書院庭園を眺める余裕もないままに、猛は紺のスーツにネクタイ姿で足を速める。 
 今朝は珍しく寝過ごしてしまい、七時半の出勤時間ギリギリだった。 
 寝呆け眼にしみる朝日に顔をしかめ、肩で息を吐いていると、軽やかな革の靴音が前方から近づいてくる。

「朝っぱらからため息つくなよ、景気悪いな。オヤジか? お前は」           
 陽介が猛の行く手を遮って、憎まれ口をたたいて微笑む。しかし、猛の顔をひと目見るなり、ぎょっとしたように肩を揺らした。
「なんだ、お前。その不細工な顔」
 陽介が声を上擦らせるほど、ひどい顔をしている自覚は猛にもある。昨夜は泣きながら眠ったせいで目蓋が重く、むくみもひどい。目の下には黒いクマが浮き、唇はカサカサに乾いてヒビ割れている。

「すみませんね。元からこういう顔なんで」
 誰のせいだと腹の中でうそぶきながら、猛が陰欝に双眸を眇めさせた。と、次の刹那、猛の顎に指をかけ、上を向かせた陽介の顔が間近に迫る。
「どっか具合悪いのか?」
 驚くほどに真摯な声音で問い質されて、猛は言葉を詰まらせた。
 しかも自分の方は昨夜のキスを引きずって、こんなに思い乱れているのに、陽介はといえば肌理の細かい肌は艶々。髪も綺麗に撫でつけられて、目には星のような煌めきと力が漲っている。
 そのうえ仕立てのいいグレーのスーツに小紋のネクタイ。エキゾチックで官能的なフレグランス。
 朝っぱらから一縷の隙も見られないスタイリッシュな身仕度に忌ま忌ましさがこみあげてくる。結局、昨夜の事は陽介にとって取るに足らない日常茶飯事なんだと証明された気さえした。

「大丈夫です。ただの寝不足ですから」   
 猛は顎を摘んだ陽介の手を払い除け、脇をすり抜け歩き出す。けれども後をついて来て、陽介が不満げに言い返してきた。                          
「だって、昨日は十二時前に帰してやったろ? なんでそれで寝不足なんだよ」
「家で仕事してたんです」   
「嘘つけ、お前。帰る時見たら、お前の部屋もう真っ暗だったぞ」     
 猛の部屋が子供時代と変わりなく別棟にある二階の角部屋だということを確認すると、陽介は鬼の首でも取ったように胸を張った。     
「……って、何時頃ですか? それ」
 途端に猛が足を止め、目を丸くして問い質す。               
「さあ。……一時ぐらいじゃねえの? 知らねえよ。覚えてねえよ」     
 ふと気まずげに目を逸らし、言葉を濁した陽介を猛はまじまじ見つめ返した。綾の店の閉店が午前一時ということは、それからすぐに出たことになる。
 険しかった猛の顔に安堵の色が広がると、陽介は決まり悪げに眉を寄せた。 


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