「咲かない桜の桜守」
第三章

咲かない桜の桜守 20

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翌朝も羽太は乾山公園の駐車場に、車を停めて降り立った。
ただし、今朝は車のバックミラーを覗きこみ、
ネクタイの曲がりや髪の乱れを入念に整える。 
昨日の最後の一行に、何の意図があるのかは、あえて聞かずにいるままだ。
とにかく桜と一緒に持ち主の顔写真も添付しろ。
撮って送れと言われたからには、松田には必要なのだろう。

平家桜を囲った綱を跨いだ羽太は、うねる幹を背景に自撮りした。
撮った写真を確認すると、なんだか顔が強張って、
履歴書に貼る証明写真のようだった。
かといって、これが何の用途で使われる写真なのかが、わからない。
だから、笑った方がいいのかも、畏まった方がいいのかも、わからない。
羽太は束の間考える。

だからといって、別に恋人や家族や友人に送るための写真じゃない。
だとしたら、普通にオフィシャルな顔をすればいい。
動画や写真を送るのは、桜の状態を伝えるため。自分なんて映ってさえいれば、いいはずだ。
羽太は松田に対しては、『オフィシャル』という一線を濃く引いた。

松田は平家桜の主治医であり、自分はその患者の家族のようなものなのだ。
患者と家族に主治医は一人しかいなくても、
医者には他にも患者がいる。その患者の家族がいる。
ひとりの重病患者とその家族がその医師を、
独り占めしようなんて、誰も思わない。
松田はちゃんと自分に対して一線を引いている。
それができていないのは自分の方だ。自分だけだ。

羽太は愛想の欠片もないような無表情の顔写真を、
撮り直そうか、迷って止めた。
きっと何かの証明書類に添付する写真か何かに違いない。
自分でそうだと決めつけて、自撮りは一枚で終わらせる。

そのあと指示された通り、幹の樹膚にレンズを向け、動画モードで
撮影する。
すると、幹の樹膚が所々で剥がれかけ、
その下の表皮が剥き出しになった所から膿のような汁がじくじくと
湧いている。
「こんなの昨日、あったかなあ……」
眉間に皺を寄せながら、思わず声に出していた。

その樹膚の動画と自撮り写真を、とりあえず松田に送信した。
他にもないか確認するため、幹の裏にも回りこむ。
と、その時、朝霧にけぶる公園に羽太の携帯の呼び出し音が鳴り渡り、
羽太は雄叫びを張りあげた。
基本、不意打ちや突然鳴る音が苦手で過剰に反応しやすい質なのだ。

「……なんだよっ、こんな朝っぱらから」
驚きすぎた自分が自分で気恥ずかしくなり、舌打ちし、
送信名も確かめないまま携帯を出して耳にあてた。
「はい。三浦です」
『俺だ。松田だ』



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