「咲かない桜の桜守」
第二章

咲かない桜の桜守 13

 ←警告です →咲かない桜の桜守 14
庭の実生の桜から切り出した根を持って、松田の車で今度は乾山に移動した。
平家桜のある公園の駐車場に車を停めるやいなや、
羽太も松田の車のトランクから、シャベルやスコップや剪定鋏、藁縄などの道具を
せっせと運び出した。松田の動作が心なしか機敏さを増している。
つまり根付ぎも時間との闘いなのだろう。羽太は無駄口も挟まず松田に続き、
駐車場から公園に続く階段を駆け降りた。

冬晴れの朝の陽光が、広大な公園の遊歩道にも平家桜にも
うららかに射している。

「三浦は接ぎ根を用意しててくれ」

松田は現地に着いても、まず自分で平家桜の上根の土をスコップで取り除き、
やはり羽太は待機させる。
それなら松田が「お前ならできる」と言った事は、何なのか。
羽太には今の所、松田が一人でできない事はないような気がしていた。

いつ『その時』が来るのかと、戦々恐々としながらも
羽太は松田のすぐ側で、手早い作業を見守った。
松田は平家桜の根を掘り起し、木の根の途中で先端を剪定鋏で切り落とした。
そして、若木の桜と平家桜の根の表面をカッターで斜めに削り、
ふたつの断面を密着させる。
計測すらせず、目分量で削った双方の断面が寸分の狂いなくピタリと合わさった瞬間に、
羽太は思わず声を上げた。 
「すごい! ピッタリじゃないですか!」

太さの違うふたつの根の断面を、双方それぞれ斜めに角度を変えて削って調整し、
最終的に平家桜の根の形成層と、接ぎ根の形成層を重ね合わせ、
一本の根にしてしまっていた。

「じゃあ、三浦はこの状態で接ぎ目がズレないように持っててくれ」
興奮する羽太とは対照的に至極冷静に指示される。
「わかりました」
言われた通り、羽太は松田を入れ替わった。
そうかと、羽太はようやく納得した。
確かに藁縄で接ぎ目巻く間、二本の根を密着させて保持する人間が
もう一人必要だ。
羽太は松田が凝着させていた力加減も、そのとき同時に引き継いだ。

「よし、じゃあ、そのまま固定してろよ。二つの根っこを押しつけすぎても
押しつける力が弱すぎても繋がらないんだ。今のこの力の加減をキープしろ」
松田は険しい顔で羽太にとんでもなく重要な枠割を言いつける。
「ええっ!?」
直後に羽太は青くなった。
そんなの無理だ。自分は素人なんだと訴えたくなり、
羽太は唇を喘がせた。
けれど、松田はもう羽太を見てはいなかった。
準備した藁縄で繋ぎ目を素早く縛って固定する。

接ぎ目を固定する力加減が根付ぎに影響するのなら、
縄の縛り加減の強弱も当然、影響をきたすはず。
緊張した面持ちで息を凝らし、藁縄を操る松田を見ていると、
羽太は弱音を吐けなくなる。
素人だから無理だと言うのは、期待に応えられなかった時の結果と、
それに伴う責任から、逃げ出そうとしているだけだ。
松田はそれから逃げてはいない。
それなのに桜の主の自分が真っ先に逃げてどうすると、羽太は自分を叱咤する。

松田は持参した残り七本の若木の根も同じ要領で接ぎ足した。
最後に藁縄も根も隠れる程度に土を乗せ、ほっと小さな息を吐く。         
「この根の上を踏まれないよう、後で桜の周りに綱を張ってくれ」  
松田が土で汚れた軍手を外し、振り向いた。
どうやらこれで、根付ぎの作業は終わったらしい。
「わかりました」
羽太は力強く頷いた。
長時間しゃがみこんでいたせいで、腰を上げても膝から下が痺れている。
羽太は背を反らしたり、頭を左右に傾けた。
首の骨がポキポキ音を響かせた。

「疲れただろ」
「疲れたっていうか、緊張して……」
継ぎ目を支える手の力。繋ぎ目に圧をかけすぎても足りなくても、
巧く移植できないと釘を刺され、息が詰まりそうだった。
けれど、頑張ろうなんて力めば無意識に力が入る。
かといって、恐がり過ぎても腰が引ける。だから途中から考える事を放棄した。

素人のくせに役に立とうなんてすればするほど、見当違いの事をして、
松田の邪魔をするはずだ。
何もわからないなら自分は無心で継ぎ目を支えているのが役目だと、
そう思っていたのだが。

「僕、ちゃんと言われたようにできてました?」
胸を刺す不安の欠片が口をついて出てしまう。
羽太は真新しく作られた桜の根元の土饅頭に目をやった。
「できてたに決まってんだろ。できてないと思ったら、すぐにでも止めさせてた」
松田は羽太の危惧を一笑に伏して目を細めた。

「根付ぎは支え手と縛り手の呼吸が合わないと、力加減が一定にならなくて失敗する。
だから、本当は何十年も連れ添った夫婦でやるのがベストだって
言われている。それぐらい阿吽の呼吸でやれなかったら成功しない技巧なんだ」
「……えっ?」
本来なら夫婦でするのがベストだという行程を成し遂げたのだと称えられ、
羽太はドキリと鼓動を波打たせた。



にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説


ピクシブでは限りなくBLに寄せていますが、一般小説の歴史ものを書きました。戦国時代、織田信長の桶狭間の戦いは本当に奇襲だったのかが、テーマです。
ピクシブの【サドンデス】のページは→こちらから。
小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【警告です】へ  【咲かない桜の桜守 14】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【警告です】へ
  • 【咲かない桜の桜守 14】へ