「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト32

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 どんな美人に言い寄られても、結局綾の所に戻っていくのだ。       
 猛は鉛を胸に押し込まれたような胸苦しさを覚えながら、俯きがちに門をくぐった。足元を照らす常夜灯に導かれながら敷石を踏み、敷地内の西棟にある自宅に向かった。

 自分に対して最初から横柄だった陽介が、誰に対しても歯に衣着せぬ苦言を呈し、高飛車なのだということを今日は思い知らされた。             
 陽介にとって、自分が特別である要素は何もない。今はただそれが切なくやるせなかった。

 風呂をすませて二階の自室に戻った時も、視線はいつしか窓の外へと向けられていた。肩にタオルを掛けたまま、恐いもの見たさで窓辺に寄ると、街道を挟んで斜向かいにある綾の店の明かりが消える。
「……もう、そんな時間?」
 驚いて時計を見ると、針は午前一時を差している。
 すっかり人通りも絶え、店の軒灯も消されてしまった街道を月明かりが蒼く映し出していた。猛はため息混じりにカーテンを引き、窓辺を離れて電気を消した。
 そのまま力なくベッドに腰かけ、枕を抱えて横になる。    

 陽介はもう、綾の店を出たのだろうか。
 店に入る姿は見ても、帰る姿を見たことはない。今までそれを気にしたことは一度もないのに、今日だけは綾の店を後にする陽介の姿を見届けたかった。                
 何度も気怠く寝返りをうち、枕に顔を埋めても、早鐘をうつ胸が苦しく息ができない。   
 ため息をつくたび、この口を覆ったあの唇が蘇り、猛をさらに追い込んだ。
 獰猛な口づけ。
 歯列をたどってくすぐる舌先。
 探しあてた性感帯を執拗に責めて煽りたて、溢れる唾液をすすった男。絡めた舌を甘く噛み、きつく吸って唇を食み、ほくそ笑んで離れていった。                   

 最後に艶冶に含み笑った陽介の吐息。
 眇められた双眸が、体の芯を疼かせる。猛はもの狂おしい情動に炙られながら、腹這いになる。    

 『ただの知り合い』ともあんなキスができる陽介にとって、こんなキスに何の意味があるだろう。
 何の意味もない事に絶望に近い胸の痛みを感じながら、猛は無機的な涙で頬を濡らした。 
 陽介にとって、こんなキスは酒の席での悪ふざけ。きっともう自分がした事なんて頭になくて、今頃はあの腕の中に綾を抱いているのだろう。
どうしてそれがこんなに切ないのかを考える前に、猛は睡魔に見舞われるまま寝入っていた。


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