「咲かない桜の桜守」
第二章

咲かない桜の桜守 8

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「今回みたいに急な依頼もあるからな。大体の応急処置ができる程度は車のトランクに入れている」  

松田は割り箸を裂き、早速長芋の梅肉和えを摘み出す。
という事は、平家桜の被害は松田にも想定外だった事になる。
事前に異変を知らなかったというのなら、なぜ急に訪ねてきたのだろう。
まだ花見の季節でもないのにと、羽太が疑問を口にしかけた時だった。
松田が鍋に箸を伸ばし、地鶏と葱を自分の小鉢に取り分ける。

「あっ! 駄目ですよ、松田さん。まだ煮えてませんよ。早いですって」
「そんな事ない。もう食える」
「だって、今入れたばっかりなのに! 鶏は火の通りが遅いんだからヤバイって」    
羽太は菜箸で松田の鉢から鶏肉だけ取ろうとした。それを松田が身を捻り、肩で小鉢を防御する。
「松田さんっ!」    
「うるせえなあ。好きに食わせろ。腹減ってるんだ」
松田も意地になったのか、真っ先に鶏肉にかぶりついた。
「じゃあ、もう本当にお腹痛くなっても知らないですからね!救急車呼んだって、
町の病院まで往復二時間かかるのに!」
「うるせえ。生煮えの肉、食ったぐらいで腹なんか壊すかよ」   
「ほら、もう自分で生煮えだって言っちゃってるじゃないですか」
羽太が声を張った途端、松田は痛い所を突かれたと、言わんばかりにギロリと羽太を一瞥した。
後はただ、親に主張を論破された子供のようにむくれてだんまりを決め込んで、
黙々と鍋の野菜を食べている。
羽太はクスクス笑いつつ、松田の旺盛な食欲を満たすため、鍋にせっせと
地鶏やきのこを追加した。

平家桜が倒木の危機に瀕している。その状況に何ら変わりはないのだが、
松田のふてぶてしさに笑いが漏れ、暗雲の垂れこめた心の雲間に不思議な光が射している。
羽太もまた、ぐつぐつ音をたてている鍋の具と汁を鉢に入れ、
湯気を吹きつつ頬張った。
冷えた体が腹の底から温もって、自然に頬も緩んでくる。
今ここに、松田がいてくれて本当に良かったと、羽太は胸の中で呟いた。

そんな彼の泰然としたマイペースぶりに、羽太は再び翌朝遭遇し、
庭に面した縁側の雨戸を開けるなり固まった。

「……おはようございます」
「ああ、早いんだな」

庭を囲む漆喰塀の内際で、土に着くほど枝を延ばした枝垂桜に松田が添って立っている。
しかも縁側に顔を向けたのは一瞬だけ。
すぐに枝垂桜に向き直り、医療器具の聴診器を桜の幹に当てたまま、神妙に耳を澄ませている。
「松田さんこそ何やってるんですか」
羽太は唖然としながらも、縁側から下駄をつっかけて庭に下りた。
土の霜をザクザクと踏みしだき、松田の所に駆けつける。 

「何って、この樹の状態。診断してるに決まってるだろ」
「えっ?」



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