「咲かない桜の桜守」
第一章

咲かない桜の桜守 3

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その翌日の朝七時、羽太は男に言われた通り『平家桜』まで車で来た。
勤め先には急遽、事情を話して有休を申し込み、
今日は一日、男の検分に立ち会う用意も整えた。

また、羽太が運転する車の助手席には、桜祭りの幹事の小泉も座っている。
昨夜のうちに経緯を打ち明け、同行してくれるよう頼んでおいたからだった。 

「だけど、全然気づかなかったよ。平家桜がそんなことになってるなんて……。
俺も時々様子、見に来てたはずなのに」
 
市営公園の駐車場に車を停めると、小泉が悄然と肩を落として先に降りた。
続いて羽太も車を降りて鍵をかける。
がらんとした駐車場には、昨夜と同じ乗用車だけが停まっていた。

「まだはっきりしたことは、わかりませんから。とりあえず、樹木医だという人の話を
聞きましょう」
羽太は落ち込む小泉を宥めるように微笑んだ。
とはいえ昨夜の男の様子から見れば、あまり楽観視できないこともわかっている。
一縷の望みに賭ける思いで、羽太も小泉も駐車場から公園に続く階段を
言葉少なに下りていった。
正面からは、冬晴れの朝日が照りつける。

「ああ、あの人が例の桜守さん?」
額に掌をかざしつつ、小泉が隣の羽太に聞いた。
東の山際から日が出た途端、一気に空気が温まるのを感じていた。
平家桜のどっしりとした幹の裏から昨夜の男も姿を見せ、二人に気づいて会釈した。   

「おはようございます。私、桜祭りの幹事を務める小泉と申します」
お疲れ様ですと笑顔で労い、彼の方から男に名刺を手渡した。
男は軍手を外して両手で受け取り、傍らの羽太にも一瞥をくれる。
「松田です。よろしくお願いします」
 
そっけなく答えた松田は羽太にも自分の名刺を差し出した。
受け取った名刺の肩書きは樹木医で、名前は松田直人。
住所は、この南信州から遥か遠い和歌山県の山間部だ。それなのに、どうしてこんな僻地の桜を
わざわざ眺めに来たりしたのだろう。
こちらの方で別件の仕事があり、ついでに寄ったと言うのなら、
あんな夜中に来ないだろう。羽太はまず、それを確認したかった。
けれど、羽太が口を開くより先に、せっかちな小泉が前に出る。

「それで、桜の状態はどうなんでしょう。見た感じ、いつも通りに思えてしまうんですけれど」     
不安げに顔をしかめつつ、詰問するように松田に言った。
羽太も内心「大丈夫でした」の回答を求め、目顔で彼に縋りついた。
しかし、松田は険しい顔で左右に微かに頭を振る。  
「これは故意に毒を打たれて枯らされています。再生は難しいかもしれません」    
「ええっ?」

羽太と小泉は、ほとんど同時に悲鳴に近い声を上げた。
松田は取りつく島もないような紋切り口調で言い切って、じっと桜を睨んでいる。



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