「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト31

 ←ホワイトナイト30 →ホワイトナイト32
「っ……!」
 息を吸い込み、くぐもる声をもらした猛が反射的に顔を背けた。それでも顎を鷲掴みにして引き戻し、噛みつくように口づけてくる。                     
「陽、……っ!」
 抗議の声をあげた途端、侵入してくる淫らな舌先。
 何度も何度も重なる唇。
 気づいた時には両手を掴まれ、背後の塀に張りつけられていた。               

「ちょっと、何、す……っ」  
 陽介が息を継ぐたび、悲鳴じみた声がもれる。どうしてこんなと惑乱しながら肩をよじり、封印された拒絶の言葉を頭の中に響かせていた。
 一方的にキスを深めて猛の膝を膝で割り、卑猥に密着させた下肢の熱さ。
 鋼のように堅い体躯と塀に挟まれ、手首をきつく戒められて、身動ぐ事もできなくなる。次第に呼吸もままならなくなり、抗う四肢から力が抜ける。

「猛……」
 頭の中が霞がかって、崩れそうになっていると、吐息をもらした陽介に巻き込むように抱きしめられた。好き勝手に貪り尽くした唇から、羽のように軽いキスがぎゅっと閉じた目蓋に移る。           
「猛、……猛」
 うわごとめいた陽介の声が耳元で聞こえ、腰から尻へ流れる掌。
 一瞬凝然として目を剥く猛に淡い笑みを浮かべながら、陽介が僅かに胸を離した。 

「なに、ど、う……」                        
 どうしてこんなキスなんか。                            
 悪ふざけにも程があると、腹の中では怒り狂って叫んでいるのに、息があがって言葉にならない。肩を上下に喘がせながら固唾を呑んで睨みつけると、猛の乱れた前髪を陽介がそっと梳きあげ囁く。             
「……ヤベえな。全然止まんねえ」

 からかうように鼻の頭にキスして、濡れた口端を野卑に舐めずる。そうして再び抱きつきながら唇を重ね、身体を折り曲げるように猛の肩に顔を埋めて首筋にまで舌を這わせた。

「も、う。やめ、……って! 何、や……だっ!」
 絶え間なく聞こえる肌を吸う音。堪らず肩を押し戻し、必死に顔を背けても、未練がましく目尻や頬に吸いついてくる。 

「酔っ払ってるんですか!」
 声を荒げた猛が脇をすり抜け、路地に逃れた。 
 しかし陽介はただ、怒りに震える猛を不遜に眺めて笑み崩れると、突然歩み寄ってくる。
「お前が可愛い顔して拗ねるからだろ?」  
「な……!」
 咄嗟に退く猛の肩に腕をまわし、陽介が耳元で言い放つ。ムキになっていきりたつ猛の動揺を楽しむように目を細め、くしゃくしゃに髪をかき混ぜた。            
「おやすみ。またな」  
 最後に派手に音をたてて頬にキスした陽介を、猛は思わず突き飛ばす。 
「いい加減に……っ!」
 振り向きざまに怒鳴りつけ、よろめきながら顔を上げると、それこそ跳ねるような足取りでカフェ&ギャラリー『綾』に向かう陽介の背中がそこにある。     

 隣家が迫った細路地から街道に出て左右を確かめ、道を渡る陽介がもうこちらを振り向くことはない。連子格子の隙間から洩れる明かりを目指す後ろ姿は、家路を急ぐ男のように安らいで見えた。 




にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【ホワイトナイト30】へ  【ホワイトナイト32】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【ホワイトナイト30】へ
  • 【ホワイトナイト32】へ