「死か降伏か」
第三章 LOSE-LOSE

死か降伏か 59

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晴れ渡る秋空に、鰯雲いわしぐもが流れている。
下草を踏み分けながら、沖田は一人で廃寺に分け入った。
崩れかけた本堂の壁に弓用の的を張りつけて、
後ずさりながら洋銃を右手で構え、的に向かって銃口を向けた。
とはいえ、ほんの腕の長さほどの短距離だ。

それでも見よう見まねで引き金を引いてみる。
鼓膜をつんざく破裂音。
肘から肩まで貫くような振動の重量感。
それらの衝撃に耐えるため、無意識に歯を食いしばってしまうのか、
撃てば撃つほど首が岩のように凝ってきて、次第に頭が痛くなる。

にも関わらず、まったくといっていいほど的に弾が当たらない。
的の枠をかすめたなら良い方だ。
これまでさんざん撃ってきた弾の八割が、本堂の壁に跳ね返されるか、
めり込んだ。

そもそも沖田にはまず、撃った時に上下にぶれる銃身を、
どうやって制すればいいのかが、わからない。
なんとかして動かさないよう両手で握杷あくは(グリップ)を握りしめ、
引き金を引いてはみたものの、今度は爆発の反動が直に手首に伝わって、
腕の筋を痛めてしまう。
 
「これは、ちゃんと命中するように出来てるんだろうか。本当に……」
 
お手上げとばかりに沖田は肩を落として溜息を吐く。

もちろん初めて会ったあの時に、千尋が自ら撃とうとしていた洋銃だ。
手入れも行き届いていたに違いない。それを承知の上でのぼやきだった。
だが、己の鼻先に銃身を向け、いっそ不良品であって欲しいすらと願いながら目を閉じた。
その時だ。
沖田の背後で鮮烈な破裂音が響き渡り、
野鳥の群れが夕空に向かい、羽音をたてて飛び立った。
 
同時に耳の先を熱風がかすめ、
正面にある的の黒円の中心に風穴がひとつ開いていた。

沖田は反射的に腰を落とし、腰の刀の鰐口を切る。
しかし、誰何もせずに抜刀しながら振り向くと、千尋が硝煙をたなびかせた銃口を
こちらにまっすぐ向けていた。

「千尋さん……」
 
沖田は語尾を上擦らせた。
だが、静寂に包まれた寺の枯野に、撃鉄を起こす鈍い音が心臓に直に伝わった。

「あなたは、やはり……」

愁傷に詫びを入れたり、洋銃を譲ったり。
こちらに懐く素振りをみせながら、油断を誘っていただけか。やはり新撰組とは相いれない、
討幕派だったということか。
刀の柄を握りしめ、右足をそっと前へ滑らせる沖田に、
「お止しなさい」
千尋は両手で握った短銃を顔の前で構えなおして目を眇める。
 
「この間合いなら、私はあなたが一歩踏み出す前に撃っています」
 
千尋の銃口は沖田の眉間を捉えている。
剣の申し子。剣聖とまで謳われた沖田の脳裏に初めて死の一文字がちらついた。




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