「死か降伏か」
第三章 LOSE-LOSE

死か降伏か 58

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「……何だ?」
「これで千尋さんのステラテジー(戦略)は、完遂されたわけですね……」

蔦屋を単身訪ねた折、通された座敷で千尋と久藤佑輔が密かやに英語で交わした会話の中、
沖田は、この単語だけを聴き分けた。
そして、後日その意味を語学に長けた宮迫に確認し、千尋が既に何かしら
画策しているらしいことは、薄々感じていたのだが。

「総司。蔦屋が何だ」
 
気の短い土方の声が怒気をはらんでも、沖田は自分の回想に浸っていた。
自分が蔦屋に乗り込んだ時にはもう既に、千尋はこの根回しを終えていたに違いない。
だから、久藤佑輔にも心配するなと言えたのだ。
唐突に、咳き込むように笑い出した沖田を見つめ、土方は更にせっついた。
 
「総司」
「いやあ、本当にかないませんね。あの人には」
 
千尋は薩摩の後ろ盾になることで、亰から長州藩を追い払い、
なおかつ新撰組をも封じ込めるつもりだった。
だから、自分達の身の安全は確保されているのだと、
あの時点で断言することができたのだろう。

つまり、土方から二人を守るために。
会津藩での千尋の地位を確固たるものにするために、朝廷の攻略へと
千尋を走らせる必要などなかったのだ。

笑いながら、沖田は胸の奥から木枯らしのような音をさせて激しく咳込み、、
座敷の隅に置かれたはずの水差しをまさぐった。
ただ、それならそれで、必要がなかった『朝廷の攻略』に、
あんなにも走り回ってくれたのか。
新たな疑問が沖田の胸に、微かなもやくのように湧いてくる。

土方は苦しげにむせる沖田の代わりに湯呑に水を汲んでやり、
その手を引いて持たせてやる。

「すみません。ありがとうございます」
「ほかにも蔦屋は今回の政変では、左大臣の二条斉敬にじょうなりあきらくをせっついて、
長州寄りだった公卿の寝返りを根回ししただの、
今度の戦に薩摩を引っ張り出した首謀者だのと、噂する輩もいる。とかく奴には裏がある。
下手につついて藪蛇やぶへびくじゃあ、割りに合わん」
「土方さんがそうおっしゃるのなら、私は従うまでです。失礼します」
 
沖田はいっそ清々しいような心持になりながら即答した。
そうして平素変わらぬ微笑をたたえ、障子を開けて廊下に出た。
一階の大広間では新撰組に名をあらためた同志らの、賑々しい声や三味の音が
響いていた。




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