「死か降伏か」
第三章 LOSE-LOSE

死か降伏か 55

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土方は酒があまり得意ではない。
それでも、隊が初めておおやけに功を成した祝いの席だ。
酌を拒み、場を白けさせるのは本意ではない。
副隊長に酌を拒まれたという恨みになっては、今後の士気にも関わるだろう。
 
土方は渋い顔をしながらも、隊士の酌は残らず受けた。
一方の近藤は、両脇に芸妓をはべらせ、すっかり悦に入っている。

近藤を間に挟み、土方の反対側に座る山南敬助やまなみけいすけは、
土方と同列の副長という地位にありながら、平
隊士達の視界にも女の視界にも入らないのか。見るからに侘しく手酌で杯を空けていた。
 
「山南先生。おひとつ、いかがですか?」
 
山南は思いがけなく声をかけられ、目を上げた。
すると、徳利を掲げた沖田がふわりと微笑み、目の前で膝をついている。
優しい顔立ちの沖田が奥二重の目尻をほんのり紅潮させていると、
そこはかとなく生娘のような色香が匂いたつ。

「先生はよしてくれよ」
 
山南は苦笑しつつも快く酌を受け、すかさず沖田に返杯した。

「君の方こそ、その若さでこれから一番隊隊長の重責を担うんだ。
大したもんだよ、沖田先生」
「いやだなあ。私は単に使い勝手がいいだけですよ」
 
この男にしては珍しく酔いがまわっているのか、舌足らずになっている。
暑苦しそうに衿元を広げ、山南の前で胡坐をかいた。

「ところで、山南さんは短銃を扱ったことは、ありませんか?」
「短銃? ピストールかい?」
「はい。実は、これなんです」

沖田は膝の上で紫のふくさを左右に開き、銀の銃身をちらりと見せた。

「洋銃指南の方々も、短銃となると勝手が違うとおっしゃられて困ってるんです。
山南さんは博学でいらっしゃるから、扱いもご存知なんじゃないかと思いまして」
「とんでもない。私だって実物なんて初めて見たよ」
 
山南は両手を胸の前で振りながら、大きく体をのけぞらせ、
銃を手にしようともしなかった。
ほどなく、芸妓を囃したてる隊士らの野太い声と手拍子がわき立ち、
賑やかな三味の音色にあわせるように、酔った隊士が尻からげをして踊り出した。

「そうですか。申し訳ございませんでした。
こんな宴席に無粋な話をしてしまい……」
 
沖田はしゅんと肩を落としながら、素直にふくさを折りたたんだ。
しかし、口調も動作も酔いが回って愛らしく、
緩慢になっていた沖田がふいに真顔に豹変し、
身にまと空気を凍らせる。
人目を避けながら座敷を離れ、廊下に出ていく土方の背中を目の端で捉え、

「失礼、先生。私もちょっと憚りに」
 
沖田は酔っていたのが嘘のように軽やかに立ち上がり、
一礼をして座敷を出た。




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