「死か降伏か」
第三章 LOSE-LOSE

死か降伏か 53

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「上のことはわからんよ」
 
近藤は一刻も早く話を切り上げたいと、言わんばかりに手拭いで
顔を拭うふりをしながら背を向けた。
この男は学のない劣等感をこじらせて、柄にもない議論好きでも知られている。
だが、根っこのところは『策略』嫌いな質なのだ。

自分とは違い、きっとそんな面倒なことは考えるのも嫌だと訴えているに違いない。
しかし、わかってはいても思わず怒気を浮かべた時だった。

「やあ、土方さん。ほんとにお花畑だ」
 
沖田の明るい声に思わず足を止められた。

御花畑御門は、御所の正門にあたる建礼門の正面に
設けられた通用門だ。
今度の政変で要職を解かれた長州藩が大挙して押し寄せ、御所堺町の御門が突破されたら、
そこからまっすぐ北に下がり、
御所の正門前に位置するこの御花畑門が次の標的となる。
この御花畑御門も血で血を洗う戦場と化すに違いない。
 
そういう意味では第二の砦であり、
地味ではあるが決して疎かにはできない要所にあたる。
その門の脇に、こんもりと土を盛られた一角があり、
萩や桔梗が可憐な花を咲かせていた。

「総司」
 
土方は振り向きざまに眉間に皺を刻みこむ。

「お花畑を連呼するな」
「怒らないでくださいよ。私は事実を言ってるだけなんですから」
 
沖田は弾けるように笑いながら、隊士の中でも巨体で知られる松原の陰に、
さっと隠れて非難した。
坊主頭に白鉢巻を締め、大長刀を携えて立つ松原は、
見た目通りの愚直な男だ。
若く清純な美貌の沖田に抱きつかれても、にこりともせず立っている。
あたかも『今弁慶』の様相を呈していた。

「何にしろ、門前払いを食らわされる寸前で、ありがたい御役目を授かったんだ。
幸運だったと思うことにしようじゃないか」
 
近藤は土方の肩に手を置いてとりなして、烏帽子を被り直す。
結局、近藤の頭の中には『今』しかないのだ。
今より前に誰がどんな策を練ろうとも、人の心も状況も刻々と変化する。
策などというものが、万事有効に働くなどとは露ほども考えない。

だから近藤は今、目の前に起きている事象だけに反応する。
近藤には、それだけの瞬発力が備わっている。
だから、この男は強いのだ。
何か事を起こす前に、九割方の備えをせずにはいられない土方が、
時に心底腹立たしいと思うほど、近藤は強い。
そして明るい。

土方には、近藤のこの明るさが頼もしかった。
けれども時々こんな風に同じ空気を吸っていて、居心地が悪いと感じることが
あるのも確かだった。

こんな時でもじゃれ合う沖田や近藤の強さを見せつけられた土方は、
自分の奥底に巣食う闇の深さに思いを馳せ、
やるせないため息を小さく吐いた。




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