「死か降伏か」
第三章 LOSE-LOSE

死か降伏か 50

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八月十八日の政変の同日。
正午過ぎに浅葱あさぎのだんだら模様の染め抜きを揃いで羽織り、
市中を行軍する壬生組の姿があった。

総勢五十余名。火消しにも満たない頭数だ。
先陣を切る近藤勇の籠手こてすね当てのみの小具足こぐそくに、烏帽子えぼし姿という時代遅れの扮装が、
都人の失笑をかっていた。
 
「いくら何でも遅すぎる」
 
千尋は傍らに添う佑輔に、いかにも悔しげに呟いた。

路地にあふれた野次馬の後列で様子見をする千尋と佑輔に気がついて、
鉢金入りの白鉢巻を締めた沖田が軽い会釈を寄越してきた。
顔には屈託のない晴れやかな笑みをたたえている。
仕事の貴腐にはこだわらない、愚直な性質なのだろう。
しかし、いまさら御所に出張でばったところで、主要な御門は会津や薩摩などの有力藩士で
固められてしまっている。

実際、公武合体派の諸藩と公卿が深夜一時に参内し、
すべての門を閉じさせた後の事。
長州藩に閉め出しを食らわせたまま朝廷で参議が行われ、孝明天皇の大和行幸は
決行直前で辛くも延期とされた。
 
長州藩は帝を御所からおびき出し、大和国経由で長州へ奪還せしめる夢を、
この瞬間に儚くも散らしたことになる。
そのうえ、長州藩の後ろ盾にもなっていた三条実美さんじょうさねとみなどの攘夷派公卿の参内禁止。
事実上の更迭だ。
そして、長州藩の堺町御門警護の罷免ひめんおよび、
長州藩士のすみやかな退京を明記した朝議は、すでに午前十時に可決されてしまっていた。
 
「いい面の皮だ」
 
と、忌々しげに吐き捨てた千尋を横目で一瞥し、
佑輔は口の中に苦いものがこみ上げてくるのを感じていた。
千尋にとって、そんなにも沖田は今も『特別』な男だったのか。
だから、こんなに我が事のように悔しがり、歯噛みしているのだろうか。
 
「俺は、これから寄る所がある。お前は先に帰っていろ。
今日は店には戻らない。お前から花村さんにも伝えてくれ」
 
言いながら、人混みに消える千尋には佑輔は何も言わなかった。
あえて返事をせずにいたことにすら、きっと気づきもしないでいるのだろう。
佑輔は言われた通り一人で帰路につきながら、
幼子のように、いじけて眉を寄せていた。




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