「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト29

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「だから、なんで綾さんが」
「すみませんけど、お勘定の方お願いします。今日はご馳走様でした」  
 陽介は訝しそうに眉根を寄せたが、猛は廊下に飛び出した。
 縄暖簾を手の甲で払い、一人で店を後にすると、晩秋の冷気に震えあがった。コートの前をかき合わせ、猛は置き去りにした陽介の顔を思い浮かべる。      

 積もる話の続きをしようと自宅に誘った陽介を、突き放したのは大人げなかったかもしれない。帰るとすげなく答えた途端、傷ついたように表情をなくした陽介が脳裏をよぎっていくたびに罪悪感で胸が痛んだ。    
 月明かりに蒼く照らし出される石畳。 
 火照った頬を夜気に晒し、道添いに流れる用水路の水音に漫然と耳を傾けていると、外国人の男が二人連れ立って話しかけてくる。

「すみません。フジヤさんは、どこですか?」
 幼児のようにたどたどしく訊ねながら、小柄な猛を覗きこんだ。 
「藤屋さんなら、その角を左に曲がってしばらく歩けばすぐですよ」
「……ナンですか? わたし、ニホンゴわかりません」
 髭面で大柄な白人は必要以上に顔を寄せ、にやにや笑って両手を広げる。男の吐く息からは酒の匂いが強烈にして、猛は覚えず退いた。けれども連れの男が背後にまわり、猛の退路を塞いで笑う。
 髭面の男は早口の英語で連れの男に指示をすると、猛の手首を掴み取った。 

「ちょっと、何なんですかっ! すぐそこだって言ったでしょう!」
 どうやら案内しろと言われたらしいが、藤屋旅館は目と鼻の先。案内が必要な距離ではなかった。困惑しながら腕を引くと、さらに強引に抱き寄せられる。これは観光客を装った強盗犯だと気づいた刹那、一気に顔から血の気が引いた。

「やめろって! ちょ……っ、と、誰か……っ!」
 深夜とはいえ、居酒屋にはまだ客もいる。大柄な欧米人に揉みくちゃにされて声を荒げ、必死に助けを求めていると、店から男が走り出てくる。
「何やってんだ、てめえら!」
 と、二人の男を怒鳴りつけ、猛を掴んだ男の腕を器用に捻って蹴り飛ばす。唐突に解放されてよろめく猛を胸に抱き止め、陽介は殺気立つ男二人を睨み据えた。 




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