「ホワイトナイト」
第一章

ホワイトナイト2

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  去年の十一月。
 女将だった母親が心筋梗塞で急逝したため、大学卒業と同時に帰郷したのが今年の三月。 
 そのとき、幼馴染みの成井陽介が猛と同じようにUターン組として一年早く帰郷して、『成井ファンド』という地域経済活性化事業をコンセプトにした会社を興したことも知ったのだ。

 その陽介に初めて挨拶に向かったのは、三月に正式に旅館を継いでから一ヵ月後の四月下旬。ただ、陽介が帰ってきていることを知ったのは、帰郷してすぐだった。

 だが、それから一か月もの間挨拶に行けずにいたのは、もしかしたら忘れられているかもしれないという不安が勝っていたせいだ。自分はまた陽介に会えると思っただけで震えるぐらい嬉しいのに、陽介との間で温度差を感じてしまうのが恐い。
 だから、早く挨拶に行かなければという焦りとは裏腹に、なかなか足を向けられずにいたのだが、旅館の番頭にいい加減挨拶に行くべきだろうと尻を叩かれ、ようやく腰を上げたのだ。

 だが、その時はまだ純粋に、幼馴染みとの再会を喜ぶ気持ちの方が大きかった。
 女中頭の房子からは『成井ファンド』が観光産業の民間支援に特に力を入れているということで、       
 「幼馴染みのよしみで、資金繰りでも便宜を謀ってもらうように」             
 と、言いつけられていたのだが、猛はむしろそういった子供時代の友情を仕事の駆け引きに持ちこむことは躊躇われた。     

 子供の少ない里山の貴重な遊び相手であり、実の兄のようでもあった優しい陽介。 
 しかし、陽介は親の都合で山深い南木曽からアメリカへと移住が決まり、中学卒業と同時に慌ただしく日本を離れてしまっていた。 
 彼と連絡を取ろうにも、陽介がアメリカに発ってすぐにメールアドレスが変更され、新しいアドレスも送られてこない。
 何度か手紙も出してみたが、あちらで転居をしたらしく、受け取り人不明で戻ってしまう。結局、陽介は自分とこれ以上コンタクトを取る気はないのだと、泣く泣く諦めた悲しい記憶が猛の脳裏をよぎっていった。
 それきり連絡が途絶えてしまった幼なじみと十数年ぶりに会えるのだ。

 陽介に会ったら、連絡が取れなくなった理由を聞こう。     
 きっと、何かやむをえない事情があったに違いない。       
 だからこそ仕事の取引ではなく、また会えたことを喜ぶ素直な気持ちを伝えたいと、期待のような不安のような高揚感ではちきれそうになっていた。 

 しかし、名刺を手渡し、先月『彦坂旅館』を継いだばかりの彦坂猛と自己紹介をした直後、陽介が口にしたのは、     
「大学卒業と同時に家業を継いだ? 世間じゃ大学生には相変わらずの就職氷河期だっていうのによ。気楽でいいよな。老舗旅館の若旦那さんは」  
 という皮肉な一言。 
 成井ファンドの社長室で再会したのは、黒塗りのデスクの前で長い足を組み直し、立ち上がりもせず来客を迎えた二十九歳の陽介だった。




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