「死か降伏か」
第三章 LOSE-LOSE

死か降伏か 43

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「会津と薩摩が手を組んだ以上、長州に勝ち目はないと、
帝にゃ再三申し上げているようなんだが……」
 
宿と宿の狭い隙間に大柄の才谷が入り込み、板壁に背中を預けつつ、
苦渋の色をにじませた。
千尋のその後に続き、船場の喧騒も遠退いた。

「このまま帝の勅旨ちょくしが得られなければ、長州藩を討つこともままならん。
帝は大和国に行幸召され、長州は帝を奪い去り、帝を錦の旗にして
一気に倒幕に討って出る。薩摩にとって最悪の絵図だ」
「今、帝の説得にあがられてるのは?」
近衛忠煕このえただひろ公だと伺った。何とゆうたち、公は薩摩藩主のご息女、篤姫あつひめ様のご養父でおられる。
薩摩藩とのご縁も深い。
薩摩藩邸は近衛公を頼みにしてきたようけんど、どうやら公自身は、
この政変にゃ逃げ腰らしい。
こうまで勅使ちょくしの腰が引けてるようじゃあ、とてもとても」

「では、二条斉敬にじょうなりゆき様に勅使をお願いしてみる、というのはいかがです?」
「二条様だあ? あの左大臣のか?」
「二条様は、一橋慶喜ひとつばしよしのぶ公の御従兄弟であらせられる。
公卿には珍しく、武家筋らしい気骨もおありの御方です。この件で二条様にお願いにあがりたいと、
薩摩藩から申し出ていただけないでしょうか」
「接見? ……二条様にか? いったい誰がじゃ」
「私です。私と二条様の接見の場を内密に設けていただけるよう、
才谷さんから薩摩藩に働きかけていただきたいのです」
 
「しかし、それは……」
 
才谷は苦い顔で語尾を濁し、木綿の単衣でひっつめ髪の千尋に
ちらりと視線を投げかけた。
いくら世相とはいえ、町人が左大臣に接見するなど、途方もない夢物語だ。


(注1)篤姫
薩摩藩主島津家に生まれ、公武合体政策の一環として近衛忠煕このえただひろの養女になった後、
第13代将軍徳川家定の正室となった。
同じく公武合体を強化するため、第14代将軍徳川家茂に嫁いだ和宮の姑にあたる
(注2)二条斉敬にじょうなりゆき
父は公卿。母は水戸藩主徳川治紀の娘。
公武合体政策や攘夷(外国人を打ち払う思想)論勢力の追放などに
尽力した幕末の公家政治家




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