「死か降伏か」
第二章 綾なす姦計

死か降伏か 37

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赤い絨毯じゅうたん敷きの座敷に、テーブルと椅子が配された部屋に通された沖田は、
淡い花模様の洋磁器で女中に茶褐色の茶を供された。

「これは何というお茶ですか? 良い香りですね。少し渋みがあって、色もきれいだ」  
 
沖田は早速茶器を持ち上げ、一口飲むなり、好奇心の塊のような
清らかな目を千尋に向けた。
そんな一挙手一投足を、千尋は注意深く眺めつつ、
沖田はあえて、出されたものを躊躇なく口にして見せたのだろうと
理解した。

玄関先で腰の大小を抜いたように、今朝は『丸腰』で来たのだと。
つまり、自分には敵意はないことを、
とりわけ今は同席している佑輔に、納得させようとするためだ。

沖田は明らかに佑輔からの信頼を得たいと望んでいる。
回復したいと願っている。
彼自身それを自覚しているかどうかは別として、
千尋は沖田の突然の訪問の真の狙いはそこにあると、直観した。

たとえ自覚があろうとなかろうと、
久藤佑輔という少年に魂を奪われた男がここにもいる。

千尋は掻きむしられるような焦燥感と複雑な胸中を押し殺し、
客をもてなす主人としての笑顔の仮面を張りつけた。

「イギリスの紅茶というものです。お口に合えば幸いです。
嗅げば、気分が和らぐ作用もあるとか」 
「蔦屋さんには珍しいものがたくさんあって、興味深い」
 
沖田はまた、伏し目がちに一口啜って呟いた。

「……私としても穏便に話ができればいいんですが」
「怖いですね。穏やかには片のつかないお話ですか? たとえば、あなたの上役が
三百両と芹沢鴨の首では先立っての騒動に、
ご納得くださらなかったとか」
 
口では怖いと言いながら、千尋は悠然とした微笑をたたえ、
椅子の背もたれに体を預ける。

「申し訳ございません」
「別に、あなたが謝ることではありませんよ」
「ですが、私にはあなたほどの人が、土方という相手の質を見極めもせず、
喧嘩を売ったなんて思えません」
「何をおっしゃる。私はただの呉服屋ですよ。かいかぶられても困ります」
 
のらりくらりと追及をかわす千尋の顔を、佑輔が隣で息を殺して見つめていた。
誠実に話を進める沖田に比べ、
佑輔の目には自分はどんなに悪どく狡い大人に見えるだろう。
考えるだけで、千尋の胸は針で刺されるように痛み出す。

「御察しの通り土方は、あなたが幕府の要人だということに
何の脅威も感じません。
壬生組か、もしくは会津藩にとって必要不可欠な存在でなければ、
遅かれ早かれ手にかけるでしょう」
「ゆすり屋を追い返したら逆恨みをされ、闇に葬られるってわけですか。
まったく割りに合わない話です」
 
愚痴を聞かせながら肩をすくめ、
呆れ果てたと言いうように、顔を伏せて失笑した。

「それは私も同感です。悪いのはこちらの方だ」
 
沖田は唇を引き結び、
千尋の挑発に乗ることもせず、謝罪した。
この男は、自らの非を非として認めて詫びることができる度量も
兼ね備えている。
千尋は、やはり沖田は剣の腕がたつだけの
無能な男などではないという確信を、いっそう深めていた。

「ですが、土方の気質は変えられない。だとしたら、あなたには土方にとって
かけがえのない存在になって頂かなければなりません」
 
沖田の背後から日が差し込んで、彼を黒々とした影に換える。




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