「死か降伏か」
第二章 綾なす姦計

死か降伏か 36

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「どうかしましたか?」
「壬生浪士組の沖田総司が来ています」
「沖田がですか?」

険しい顔で囁いた花村の案内で廊下を進んで行くと、
店の表の土間で中肉中背の青年の人影が折り目正しく一礼した。
しかも、彼の傍らには先に佑輔が仁王立ちして千尋と花村を待っている。

「朝早くに申し訳ございません」
 
早朝から濁りのない沖田の澄んだ声が土間に響き渡った。
千尋は佑輔を顎でしゃくって脇へ寄せ、接客用の畳の間まで駆けて行き、
着物の裾を払いながら膝を着く。

「構いませんよ。何の御用向きでしょう」
「折り入って千尋さんにお話があります」
「私にですか?」
「誠に勝手ながら、失礼します」
 
沖田は千尋の了解も得ないまま、腰の大小をおもむろに抜き、
傍らで千尋の守護神のように睨みを利かせる佑輔の胸に押しつけた。
そのまま有無を言わさず草履を脱いで畳に上がった沖田は
全身から悲愴な決意をみなぎらせている。

何の用かは毛頭見当もつかないが、
千尋は遊郭に上がる武士のように腰の大小を外した沖田の心意気だけは
買う事にする。そのつもりで心配顔の花村にも目配せをして様子見をさせ、
とりあえず沖田の自由にさせていた。

「私も同席します。よろしいいですね?」
 
だが、佑輔は大小を沖田に押し返した。

「こんな小芝居が通用すると、お思いですか? 油断するなとおっしゃったのは、あなたですよ」
「ですが、久藤様。私は今日はその忠告の意味をかねて
こちらに、お伺いしたんです」

沖田はつき返された大小を胸に抱えて間髪入れずに言い募る。
千尋にはまるで沖田が佑輔に、どうか機嫌を直してくれと
声音でも顔でも切願しているようにも感じられ、複雑な胸の痛みを覚えていた。

沖田はおそらく誰の為でもなく、
他ならぬ佑輔の為に何かをしようとしているのだと
千尋は沖田から溢れ出る素直さから無言のうちに察していた。
この青年は、自分のようには歪んでいない。
まっすぐなのだ。
だから、こんな声が出せるのだろう。こんな顔ができるのだ。

「いいからお前は関わるな。子供のくせに出しゃばるなと言っているだろう」
 
千尋は聞こえよがしに溜息を吐いた。
どうにもならない羨望と嫉妬。そんな今更ながら浅ましい感情に囚われる
自分を押し殺し、沖田だけを店の奥に上げようとした時だった。

「いいえ。久藤様にも同席して頂きます」
 
沖田はどこか冷めた眼差しを最初に千尋に向けたあと、
次に傍らに立つ佑輔に向けてに宣告した。




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