「死か降伏か」
第二章 綾なす姦計

死か降伏か 34

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「花村さん」
 
翌朝、花村が蔦屋つたやの井戸端で歯を磨いていると、
か細い声で尋ねられた。

「千尋さんが通う人って、どんな人なんですか?」
「えっ?」
 
ぎょっとして振り向いた先では久藤がしょんぼりと肩を落とし
今にも泣き出しそうに下唇を噛んでいる。
起きぬけなのか目が赤く、珍しく濃いクマも浮いていた。

「女の話ですか? 千尋さんの?」

花村は慌てて口を濯ぎ終え、濡れた口元に手拭をあてた。
 
「……さあ。私は存じ上げませんけれど」
「そんなはずないでしょう! 昨日だって出かけたはずです!」

佑輔はムキになって声を荒げて問い詰めた。
すると、やっと合点がいったように、花村が柔和な目元をいっそう和らげて
言い切った。

「でしたら、それはないでしょう」

花村は高らかに笑い飛ばして井戸を離れる。

「だって、昨日は着物の上にしゃの黒羽織で外出なさいましたから。
女の所に通うのに、正装していたらおかしいでしょう。
私も詳しくは聞いていませんが、少なくとも馴染みの女ではないはずです」
 
昨夜は店には来なかったのだが、久藤の事だ。
夜歩きする千尋の身の安全を慮り、店から跡をつけていたに違いない。
それともどこかで偶然、会ったのか。
その際、女の所に通うのだからついてくるなと、
追い払われでもしたのだろう。
 
女に不慣れな若さゆえに、
言われたままに思い込んでしまっていた久藤の若さが
花村には、いじらしくなり微笑んだ。
一方の佑輔はといえば、指摘を受けて初めて気がついたように、
ぽかんと口を開いている。
だが、すぐに顔中に憤激の色をみなぎらせ、身を翻して庭を去る。
 
そうして肩をそびやかせながら千尋を探して
店の中を歩き回り、
朝餉あさげの支度に追われているくりやの土間を通りかかった時だった。



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