「死か降伏か」
第二章 綾なす姦計

死か降伏か 28

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と、その時、沖田の背後で足を止めた一人の舞妓が俯く沖田を覗き込み、
はにかみながら会釈した。
おそらくどこかの宴席で、沖田にはべった女だろう。
美形の沖田は玄人くろうと女達からも商売勘定を抜きにした好意を向けられることも
多かった。

しかし、沖田は気がつきもせず、顔をあげることもない。
この男は仲間や自らに向けられた殺気には神掛かった能力を発揮する。
その反面、色恋や女の秋波に関しては呆れるほどに鈍感だ。
無頓着だと言ってもいい。
もし今、この舞妓が声をかけてきたとしても、
沖田は覚えてもいないだろう。

土方は袖にされて肩を落とす美貌の舞妓を顎でしゃくって追いやると、
沖田の隣に並んで欄干に肘を掛ける。

「……いざとなったら? 何の話だ」

わざとシラをきって鎌をかけた。
すると、珍しく沖田が苛立った顔を向けてきた。

「土方さんは斬るおつもりでしょう」
「当たり前だ」
 
土方は即答した。
これだけ虚仮こけにされたのだ。たとえ外国奉行が後ろ盾でも蔦屋は斬る。
そうでなければ面子が立たない。
面子が立たなければ、
壬生浪士組は見廻り組としての権威を失い、存在価値をも喪失する。

「だが、工夫がいる」
 
自分達の痕跡を残さないという意味だ。

「それは承知しています」
「助けはいるか?」
「いいえ。私ひとりの方が動きやすい」
「お前がひとりで?」

土方の胸に、にわかに疑念が湧き立った。
沖田は生来、こういう鬼謀策略に乗じることをひどく嫌って避けてきた。
人間の欲と色にまみれることを極端に厭う質なのだ。

「総司」
 
土方は会話を継ごうとした。
だが、沖田の方がそれを拒否するように伏し目がちに会釈して、
その場を足早に立ち去った。




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