「死か降伏か」
第二章 綾なす姦計

死か降伏か 27

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「これが、奴の描いた絵図だったわけか」
 
騒動前とはうってかわって蔦屋も賑わいをみせている。
千尋も呉服屋の主人らしく、
鼠色ねずいろの着物に角帯を締め、京女たちを遇していた。
 
そんな蔦屋を塀の陰から睨み据え、土方が路地に唾を吐いた。
傍らの沖田が相変わらずだんまりを決め込んでいることも、
土方の苛立ちに拍車をかける。

つい先日まで、諸外国から仕入れた安価な生地で割安に、
商売をする蔦屋を『国賊』と呼んで忌み嫌い、敬遠していた都人だけでなく、
堤の洋学塾を襲撃したと噂される長州の藩士まで
出入りしている始末らしい。
 
とはいえ、閑古鳥が鳴いていた自分の店に客を呼び込むためだけに、
あんな騒ぎを起こしたなどとは思えない。
土方は、自分の言葉を即座に自分で否定した。

客を呼びたいだけならば、浪士組を巻き込むほどの面倒事など起こさずに、
もっと穏便で狡猾な手を打つはずだ。あの男なら。

少女のように可憐な丸い目。品よく整った目鼻立ち。
それでいて野性味のある双眸が。
嘲るように口角を上げ、ゆるんだ赤く唇が。
脳裏をよぎったその刹那、忌々しいのに男としての煩悩が疼く自分に
腹が立つ。土方は苦りきった顔をした。
 
結局、答えの出ない問いかけに無理やり蓋をするために、
「そういうこと」にしなければならない。
肩をそびやかせたまま踵を返す土方に、沖田は黙って従った。


五条橋にさしかかると、川面を渡った涼風が二人の男の髷を揺らし、
のぼせた頭を冷やしてくれる。
澄んだ鴨川の清涼な流れ。
そのせせらぎに数羽のサギが脚を浸し、時折水草をついばんでいた。
沖田は土方の背後で足を止め、朱塗りの欄干たんかんに手をかける。

「私がやりますよ。いざとなれば」
 
誰に言うともなく沖田が呟く。




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