「死か降伏か」
第二章 綾なす姦計

死か降伏か 21

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「千尋さん」
 
沖田は壬生寺の裏門を出て、すぐに千尋に追いついた。
彼は手代の一人も伴わず、町駕籠まちかごも使わずに歩いていた。

「……何でしょう?」
「これ、お返ししようと思いまして」
 
炎天下で駆けてきた沖田は頬も耳も紅潮させ、あどけない少年のようだった。
返すと言った声音も無邪気で、屈託がない。
没収して自分の物にするだとか、売り飛ばして換金しようなどという
発想すら出てこない類の人間だ。

千尋は路上で足を止め、差し出された洋銃と沖田の顔を見比べた。
剣聖とうたわれるほどの男だが、人斬りの罪の対極でもある
『聖』の面の両極を持ち合わせてこそ、
この男のように卓越した何者かになるのだろう。

ごうの深い男だと、千尋は半ば哀れに思いつつ、
そっけなく沖田に言い返す。
 
「差し上げますよ」
「え……っ?」
「弾も入っていますから」
 
飄々ひょうひょうと眉を上げた笑顔で付け足し、千尋は再び歩き出した。
だが、沖田も焦った声で言いながら、
慌てて後を追って来る。

「私が頂いたって、しょうがないじゃないですか! 撃てやしないんですから」
 
と、沖田は小柄なのに足の速い千尋に追いつき、追い越して、
彼の前に回り込んだ。

こんな高価な銃を、しかも弾丸が入ったままで譲るという
彼の真意がわからない。
これでは土方が言ったように、惜し借りに抗ったのも
最初から『壬生浪士組を助ける』意図があっての言動だとしか思えない。
沖田は当惑した目を千尋に向けた。

「撃てない、ではなく練習なさい」
 
やがて千尋は長身の沖田を仰ぎ見た。

「これからの時代、剣だけでは生き残れません」
 
洋銃を差し出す沖田の右手を両手でそっと包み込み、優しく銃を握らせた。

「千尋さん……」
「あなたにもご迷惑をおかけした。せめてもの、お詫びです」
 
伏目がちに微笑して詫びた青年は、あの芹沢を脇差ひとつで追い込んだ
剣豪だとは思えないほど儚げで、そしてどこか侘しげだ。
沖田はこれ以上の押し問答は無駄だと悟り、
受け取ることにしたものの、見る間に遠くなっていく羽織袴の小柄な彼に
わけもなく親近感を覚えていた。

まだ彼は敵か味方か、わからない。
正体不明の要注意人物だ。

それでも、強靭なのかもろいのか、大人なのか子供なのか。
そのどちらでもなく、かといってどちらでもあるという
不思議な人だと胸の中で呟いた。




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