「死か降伏か」
第二章 綾なす姦計

死か降伏か 19

 ←死か降伏か 18 →死か降伏か 20
壬生浪士組幹部のひとり、近藤勇は
京都守護職松平容保まつだいらかたもりがいる金戒光明寺こんかいこうみょうじに早朝から参じていた。
 
「芹沢鴨がはたらいた蔦屋への蛮行、狼藉の数々、許しがたい」
 
と、外国奉行の文書を朗じる藩士の前で、
近藤はひたすら座敷の下座で平伏し、
言い訳もせずに陳謝の言葉を言い述べた。当の芹沢は昨晩から遁走し、行方知れずのままだった。
 
「蔦屋は英仏蘭露、支那語もできる。経理に明るく、国外情勢にも通じている。
横浜では幕府の(注1)通詞つうしではなく、わざわざ蔦屋を用いる外相や通商も多い。
居留地では、身内も同様に遇されるとも聞く」
 
会津藩士は、ひとしきり読み上げて文書を畳み、近藤に言った。
 
「何が言いたいかは、わかろうな」
「畏まって仕りまする」 

近藤は平伏したまま遠ざかる藩士の足音を聞いていた。だが、内心、
「好機だ」
とも、思っていた。

今までは、京に駐在する水戸藩家臣の芹沢の兄の力で会津藩への渡りをつけ、
何としてでも正式に京都守護職の後ろ盾を得たかった。
そのためならばと、芹沢一派の暴挙もあえて見逃した。
 
しかし、こうして無事に会津藩御預かりの身となり、
容保公へも目通りも叶うようになった今、芹沢の存在価値は消費されたと言ってもいい。
 

「斬ろう」

近藤は浪士組の屯所でもある壬生寺に戻るなり、土方を呼んだ。
 
「粛清の命を受けたも同然だ。今なら、私欲で斬ったと思われずに済む」
「あんたがそう言うのなら、反対はしない」

土方が仏頂面で答えると、近藤は早々に部屋を出た。
坪庭の青紅葉が盛夏の日差しに幾重にも濃い影を落としていた。

土方は、近藤の湯のみに残った冷茶を草木の根元にかけてやる。
これでは蔦屋に助けられたかのようだ。


(注1)通詞
幕府の外交における通訳者




にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【死か降伏か 18】へ  【死か降伏か 20】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【死か降伏か 18】へ
  • 【死か降伏か 20】へ