「死か降伏か」
第一章 OBEY

死か降伏か 17

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出自しゅつじも気質も何もかも違うふたりが、互いの体温だけを頼りにして、
寒空の路傍ろぼうで寄り添って生きる野良猫に見える。
翌朝、堤永嗣つつみながつぐは牢屋敷の一角にある揚座敷の廊下を進み、
部屋の襖を開けた刹那、はっとして立ちすくみ、
中に入ることもできずにいた。
蚊帳の中の、ひとつの布団で夏掛けの薄物一枚を身体に掛け、
額を合わせた千尋と佑輔が、手足を丸めて眠っている。

獣のように用心深い千尋だが、佑輔とならこんなにも安らかに眠るのか。
堤はまるで心臓をぎゅっと掴まれたみたいに切なくなった。
 
「千尋」
 
それでも、こんな場所から佑輔を一刻も早く連れ出さなければならないと、
堤は廊下の柱を拳で叩き、尖った声で呼びつけた。
それが佑輔を慶喜公に託された自分の使命だったからだ。

すると、跳ね起きた千尋がほとんど無意識のように枕元に手を伸ばし、
自分の脇差を探し求めてまさぐった。
けれどもすぐに南に面した障子から差し込む朝日を顔に受け、
眩しげに双眸を瞬かせる。
 
「……堤さん」
「よくもまあ、のんきに朝寝なんかしやがって」

堤は苦虫を噛みつぶしたように精悍な顔を歪めたが、千尋は大欠伸をして
言い放つ。

「見捨てられたと思いましたよ。あんまり迎えが遅いから」
 
布団の上であぐらをかき、腹やら脇やらを掻いていると、
傍らの佑輔に気がついた。
昨夜は横になったまま、寝入っていたらしい。蚊帳に自分を運んだのは、
おそらく佑輔なのだろう。
だが、蚊帳には二つ布団が敷かれ、夜具も二人分揃っていた。

という事は、添い寝するのを望んだのは佑輔自身という事だ。
いい歳をしてどさくさに紛れ、何を甘えているのかと
千尋は口元をほころばせた。
揚座敷だったとはいえ、牢に入れられた事には違いない。さすがに心細くなったのか。
図体ずうたいばかり大きくなり、背丈も自分をとうに越してしまったが、
中身はまだまだ子供なのだ。

「揚座敷なんて、私がいても何もする事がないですし。
暇を持て余していましたよ」

とはいえ二、三日は牢屋暮らしを覚悟して、番頭の花村にも留守居を頼んできた。
それが、たったひと晩で済んだのだ。堤にしては上出来だ。
心の中で感謝の弁を述べながら、
憎まれ口をたたく千尋に堤はさらに激昂した。

「何が遅いだ! こっちは寝ずに一晩駆けずりまわって来たんだぞ!」

怒りに任せて堤が襖を蹴り飛ばした。それでも千尋はどこ吹く風で笑んだまま、
眠り込む佑輔の額に流れた前髪を
指先でそっと撫でつけた。

「俺の門下生を監獄なんぞに入れやがって! てめえなんか
一生臭い飯食ってりゃいいんだ! 出て来るな!」 
「そうは問屋が卸さないから、来たんでしょう? 一晩中、亰の町を駆けずりまわって
下さって」

千尋の傲然とした反撃に、堤は二の句が告げずに黙り込んだ。
千尋はおもむろに立ち上がり、
そんな彼の目の前で鴨居に手をかけてぶら下がり、
焚きつけるように眉を上げた。




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