「死か降伏か」
第一章 OBEY

死か降伏か 14

 ←死か降伏か 13 →死か降伏か 15
「お前が蔦屋にとって特別ってのは、どういう意味だ」
「わかりません。私は面識もありませんし」
 
こもった声で呟きつつ、右手の親指の爪を噛む沖田の手首を土方が掴んだ。

「悪い癖だ。早く直せと言ってるだろ」
「わかっています」

言いながら、沖田は左手の親指の爪を虚ろな目をして噛み続けている。

顎の細い優美な輪郭の顔に、奥二重の涼しげな目元。
鼻はすっきりと高く、唇も上下ともに薄かった。
そんな沖田が思案げに眉をひそめていると、生来の色の白さもあいまって、
色街の女のように妖しくもあり、儚げでもある。

まだ二十歳になったばかりのこの若者には、剣聖のような技と知性が
時には裏目に出てしまう。
ありとあらゆる所に目端が利き、己を無駄に消耗させてしまうのだ。
 
土方は舌打ちをして、いまいましげに腰を上げた。
宮迫も大八車の引手の枠の中に入り、前傾していた荷台を立てた。
と、同時に荷台から滑り落ちた隊士のむくろの腕を拾い、

「それじゃ、私はこれで」
 
と、会釈した。けれど、沖田が再び呼び止める。

「すみません。最後にもうひとつだけ」
「はい。何でしょう」
「もうよせ、総司。関わるな」

土方は沖田の肩を掴んだが、沖田は無意識のようにそれを肘で払いのけた。

「『おべーい』って、どういう意味なんでしょう?」

訊ねた沖田の脳裏にふいに、
ねや睦言むつごとのように甘く濡れたあの男の低い声が蘇る。
人間味のない整いすぎた顔立ちでありつつも、冷たく底光りした男の目だけが
脳裏に鮮明に焼きついている。思わずぞっと肌を粟立てていると、

「『おべい』?」
 
くり返した宮迫の顔が、にわかに陰り、緊迫した。
宮迫は居づまいを正して沖田を見据え、一段声を低くする。

「沖田さん。最初に断っておきますが、そんな言葉は滅多に使うものではありません」
「なぜですか?」
「相手の感情を害するからです」

宮迫が沖田に答えると、その傍らから今度は土方が進み出て、
興味深げに追及する。

「それで、その言葉の意味は何だ。宮迫」
「『従え』ですよ、土方さん」 

険しい顔で続けると、ほとんど同時に息を呑んだ沖田と土方に忠告した。

「これは、絶対的な支配者が、
奴隷や卑賤げせんの下々に下知する時の言葉です」




にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【死か降伏か 13】へ  【死か降伏か 15】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【死か降伏か 13】へ
  • 【死か降伏か 15】へ