「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト25

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「えっ……?」
「俺はすぐにでも助けるつもりでいたのによ。お前、東京から帰ってきても全然顔出しに来なかったじゃねえか」
 憮然としながら箸を置き、頬杖ついた陽介は十年前のやんちゃな少年そのものだった。  

「そりゃあ、僕だって陽介さんの話を聞いて、すぐにでも会いに行きたかったですけれど。会社の引き継ぎとかいろいろ手続きもありましたし。帰ってきてぁら一ヵ月ぐらいバタバタしてましたけど。でも 僕。落ち着いてからちゃんと挨拶に伺ったじゃないですか」
 本当はすぐにでも飛んで行きたかった反面、陽介に忘れられていたらという不安の方が先にたち、二の足を踏んでしまっていたことは、あえて口にしなかった。

「落ち着いてからじゃ遅いんだよ」
 陽介はさらに不貞腐れ、取り皿を箸でずっと叩いている。
「じゃあ、最初あんなに態度が悪かったのは……」
 まさか拗ねていたのかと、猛は唖然と語尾を消え入らせた。それでも陽介は上目使いに一瞥したきり、否定も肯定もしなかった。
「……信じられない。小学生じゃあるまいし」
「うるさい」
「だったら、陽介さんから来てくれれば良かったのに」
「だから、俺が会いに行っていい筋かどうかわからなかった、つってるだろう。さっきから」
「だって、僕。陽介さんが帰ってきてるって聞いて本当に嬉しかったのに……」
 猛は頬を上気させながら、思わず胸に手をあてた。
 こうして『大好きな陽ちゃん』の顔でいじける陽介を前にして、今やっと十年振りに再会した。
 やっと『彼』に会えた気がして、胸の奥が締めつけられるみたいに苦しくなってくる。まるで泣き笑いのように顔を歪めて微笑む猛に陽介はちらりと視線を投げかけ、猛の好きな鯉の旨煮をそっと前に押し出してくる。

「ほら、食えよ。冷めちまうだろ」
「はい。ありがとうございます」
 猛は指の腹で涙を拭い、薦められるままに箸を伸ばした。
 そんな自分を見つめる眼差しの温もりを感じるうちに、やはりすぐには会いに行けずにいたのは、あまりに再会が嬉しすぎて、逆に気後れしてしまっていたのかもしれないと思えてくる。
 その陽介が目の前にいる。
 顔を上げれば微笑んでくれる陽介に、密かに鼓動を高鳴らせていると、個室のドアがノックされた。

「今晩は。いらっしゃいませ」
 爽やかな挨拶とともに紺のスーツの青年が、にこにこしながら入ってきた。
 ジャケットの胸元には『店長』のネームプレート。猛に一礼した後、森下と名乗った青年はトレイに乗せて持ってきた皿をテーブルに置いた。            
「サービスですんで、良かったら召し上がって下さい。飛騨牛の朴葉味噌焼きなんですけど、うちの新商品です。陽介さんにも試食して頂きたくて」
 森下は得意気に陽介の顔を覗きこんだ。けれども、途端に陽介の気配が剣呑になる。


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