「死か降伏か」
第一章 OBEY

死か降伏か 10

 ←2016年と、これからと →死か降伏か 11
負傷した壬生浪隊士が運ばれている療養所の門を土方ひじかたがくぐると、
玄関先で待ち構えていた沖田が沈痛な面持ちで駆けてきた。

「土方さん、あの……」
「話は後だ。とにかく怪我人の状態が見たい」

すがるように口を開いた沖田を遮り、土方は草履を脱いだ。
動揺している沖田を脇に押しのけて、
廊下から奥の間に向かう間にも、苦痛に喘ぐ男達の呻き声がもれ聞こえている。

「負傷者は何名だ?」
「はい、今の時点で六名です」
「死人は?」
「九名」

後をついてくる沖田に問い質し、死傷者達が寝かされた板間に上った土方を、
隊士らは固唾を呑んで見つめていた。

沖田も長身の部類に入るが、土方は彼より頭ひとつ背が高かった。
加えて役者のような面長で額も広く、鼻梁も高い。
やや目尻の垂れた優しげな双眸といい、ふっくらとした形のいい唇といい、
これほど凄惨な現場にあってさえ、滴るような色気と華が彼にはあった。

「お勤め、お疲れ様でございます」

土方歳三は芹沢鴨、新見錦、近藤勇ら三名の局長に継ぐ副長だ。
それでも彼に接する者はみな、一様に局長陣に接する以上に畏敬の念をあらわにした。
土方は白い布を被せられた隊士の顔を一人一人見て周り、
最後に深い溜息をつく。

「とんでもねえ奴がいたもんだ……」

瀕死の重傷を負った隊士の苦悶の喘ぎが地を這うように響き渡り、
地獄絵図と化した板間の中央に仁王立ちして眉を寄せた。
夏の蒸した宵闇に鼻をつくような死臭が既に漂っている。

「蔦屋の調べはついたか」
 
と、土方は諸士取調役兼監察方しょしとりしらべやくけんかんさつがたくを近くに招いて詰問する。

生国しょうごくなどの詳細は掴めませず、孤児ではないかということです。
十七で生糸問屋を興し、得意の異国語を駆使して諸外国から暴利を得たと
聞き及びました。京には半年ほど前に移り住み、呉服屋を始めています。
市場の三割安ということで、話題にはなっていたようです」
「年はいくつだ?」
「二十二です」
「若いな」
 
背後に控える沖田とほとんど変わらない。土方は監察方に更に報告を促した。

「もう一人、前髪がいたそうだな」




にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【2016年と、これからと】へ  【死か降伏か 11】へ

~ Comment ~

さく様へ


こちらこそ、温かく迎え入れてくださり
感謝の気持ちでいっぱいです。

私自身【東京ラプソディ】には特別な思い入れがありますので
何度も読み返して下さったとお聞きして
本当に嬉しかったです。
ありがとうございました。

年明けのご挨拶として書いた記事。

自分の中から何かしら生み出そうと格闘する人に向けられた
斉藤先生のメッセージのように思えたので、
こちらでも書かせていただいた言葉でした。

さく様にも何かの励み、
メッセージとして伝わるものがあったのであれば
すごく嬉しいです。

こちらで連載中の【死か降伏か】は、
カクヨムに掲載していたものと少し設定も変え、
BLカラーも、ねっとり濃くしています。
(カクヨムの読者層の八割が男性なので、歴史ジャンルでも
BL色を押し出すと、読んでもらえなくなるんです)

そのあたりの微妙な違いも、間違い探しのようにして
楽しんでいただけましたら幸いです。

さく様にとって
新しい一年が実り豊かな思い出深い一年になりますように
心からお祈りしています。

坂東さん、明けましておめでとうございます。
こちらへコメするのは、かなり久しぶりです。

ずっとカクヨミの方で読ませていただいておりました。
東京ラプソディは特に印象深く、何度も読み返すほど、どっぷり嵌まってしまいました。

カクヨミでも本作を読ませていただいておりましたが、ブログでは、また違った雰囲気といいますか、懐かしい場所へ帰ってきた…という感じがして嬉しいです(^^)

坂東さんの描く世界観が大好きです!これからもワクワク心躍りながら読ませていただきますね。

1つ前の記事…私も深く感銘を受けました。新年から貴重な指針をいただけたような、ありがたい気持ちで一杯になりました。
UPしてくださり、ありがとうございました。

2017年が坂東さんにとって、さらに輝く、飛躍の年となりますよう、お祈りしております。

いつも私達、読者にたくさんの元気と勇気と萌えを、ありがとうございます\(^^)/
管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【2016年と、これからと】へ
  • 【死か降伏か 11】へ