「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト24

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「まあ、しょうがねえよ。お前だって、親の気持ちもわかるだろう?」
 と、冷たい仕打ちを笑い飛ばした陽介の優しさ。
 懐の深さが胸に沁みて、猛はじわりと涙を浮かべる。

「だけど、いくら親でもそんな勝手なことをして……。僕がどんなに陽介さんから連絡来るのを待っていたか。知っててそんなひどいこと……」
「そんなに怒るな。俺だって、もしかしたらそうなのかもって言っただけだろ」
 陽介は怒りに震える猛の手を取り、苦く笑って箸を持たせた。
「ほら、食えよ。お前、好きだろ? ガキのくせして馬刺しとか猪肉とか」        
 慰めるように笑ってくれた陽介が、最後は涙で霞んで見えなくなる。猛は堪え切れずに口を拳で押さえながら、席を立って卓を離れる。
「おいっ!?」
 出て行こうとする猛を呼び止め、陽介もまた腰を上げた。猛はドアの前で陽介の逞しい腕に遮られ、咄嗟に潤んだ目をあげる。
「陽介さん……」    
「……いいから座れ」      
 諭すように静かに告げた陽介の双眸。     
 ひそめた眉の男の色香にドキリと胸を弾ませていると、ふいにドアがノックされ、店員の明朗な声かけがある。

「失礼します」                               
 と、トレイに乗せて持ってきた鯉の旨煮と葱焼きを置き、空の小鉢や皿を下げる。猛は我に返って陽介を離れ、手近なおしぼりで顔を拭った。 
「……座れって」
 語気を強めて促され、猛も再び席につく。
 給仕を終えた店員が去り、部屋に静寂が戻ってくると、猛はおもむろに頭を下げた。

「すみません。……こんな薄情な親で」
「お前の親の気持ちもわかるって言っただろう? 親父は五年前に癌で死んだし、借金は俺が全部返済した。母親も向こうで再婚してる。本当にいろいろあったけどな。もうみんな昔の話だ」 
 漫然と微笑んでいる陽介の頬に、ほのかに淡い色がさす。
「結局自分が痛い目みたから、今の仕事始めたようなもんだから。あれはあれで、いい経験したって思っているよ」
 陽介は感慨深げに目を細め、美濃焼きの大鉢の中で湯気をあげる鯉の旨煮に箸をつけた。

 アメリカでの生活はきっと、陽介にとって筆舌に尽くしがたい苦労があったに違いない。  
 実父に捨てられ、帰る国を失い、頼るべき相手もないままに異国を彷徨いながら、それでも自らの才覚と力量だけで人生を建て直してきた一人の男がここにいる。 

 そして、面倒事は御免とばかりに陽介の手紙を放逐した女の息子である自分にも、救いの手を差し伸べてくれたおおらかさ。
 その器量の深さに胸を打たれ、息まで震えるようだった。猛が魅入られたように陽介をただ見つめていると、陽介が面映ゆそうに眉をしかめる。
「じゃあ、お前がすぐに挨拶に来なかったのは、俺を避けてたからじゃないんだな?」




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