「死か降伏か」
第一章 OBEY

死か降伏か 2

 ←死か降伏か 1 →死か降伏か 3
女中が無言で頷いて、
そっと席を外すとともに、別の女中が入れ替わるように酒と肴を用意する。

「長州藩士を匿うなどと、とんだ濡れ衣でございます。
ご覧の通り、手前どもは安価が売りの呉服屋でございます。
島原や長屋のご新造相手のしがない商売人に、御上にたてつくなんて度胸はとても、とても」

花村は柔和な笑みを張りつかせたまま徳利を掲げ、芹沢に酒をすすめて応答した。
しかし、芹沢は一刀両断に言い捨てる。

「口では何とでも言える」
「……と、申されますと」
「幕府に逆らう意向はないなら、証をたててもらわねばならん」

書卓に置かれた洋燈を、もの珍しげに手に取って振り返り、芹沢が下卑た笑みを浮かべて告げる。 
花村はごくりと喉を鳴らし、額に汗を吹き出させながら拳をきつく握り込む。

夏の盛り。
凍てつくような沈黙の中、賑々しい蝉の音が店を預かる花村の耳に、
ひときわ大きく響いていた。
結局、袖の下をよこせということだ。

ただし、それは番頭の立場で判断できるような話ではない。
それでも主人の不在を理由にしようと、断ればきっと壬生浪士組に刃向うのかと更に絡まれ
激昂され、暴れ回るに違いない。
花村は再び裏の女中と視線をかわして呟いた。

「久藤さんは、まだか?」

目顔で訊ねる花村に女中は首を左右に振った。
花村が追いつめられて腹をくくり、番台の下の黒光りする料金箱にそっと片手をかけた時だった。




にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【死か降伏か 1】へ  【死か降伏か 3】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【死か降伏か 1】へ
  • 【死か降伏か 3】へ