「ホワイトナイト」
番外編

決戦の14日~ホワイトナイト番外編(後編)~

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「ヤダ、ちょっと! 後にしてって言ったじゃん!」
慌てて止めに入った猛を肘で押し戻し、
陽介は手提げの中から巾着袋を取り出すと、口紐を解いて瞠目した。

「わあ、すげえ! 何だよ。弁当じゃん!」

開口一番発せられた陽介の声には弾けるような歓喜に溢れ
端正な面立ちがぱっと明るく華やいだ。
少年のようにキラキラした目を円形の塗りの重箱と猛の顔に交互に向けて、
陽介がぱくぱく唇を喘がせている。

「……うん。お昼か夜食に食べてもらえたらいいなと思って」
猛は両手を後ろで組んで身体をもじつかせながら小声で答えた。
良かった。
とりあえず「何だ。弁当かよ」という期待外れの顔ではなかったことに安堵して、
猛は強張る頬を微かに緩める。

「何? これ、お前が作ったの?」
「……うん。でも、おいしくなかったらごめんね」
「ウッソ、マジかよ。だって、お前。料理できるなんて言ったことあったっけ」
「……わかんない。でも、言ったことなかったかも」

猛は曖昧にはぐらかしたが、実はそれなりに料理もするということは
意図してこれまで伏せてきた。
日本の金融市場を牽引するファイナンシャルプランナーの雄たる陽介は
自他ともに認める美食家でもある。
そんな陽介に「料理もする」なんて口を滑らせたら最後、
「だったら何か作れ」と要求されるに違いない。

そんな口の肥えた陽介に食べさせるような手料理ではないと
身の程をわきまえていたからこそ
あえて言わずに黙っていた。

だが、
もう「スイーツ」でもなく「酒」でもなく、
「そんなに金のかかる物はNG」で「サプライズ込み」ともなると、
この「手作り弁当」ぐらいしか頭に浮かばなかったのだ。

「マジかよ……。すげえ。マジで愛妻弁当じゃん……」
陽介は感嘆の声を消え入らせた。
そして、そのまま廊下に座り込んで胡坐をかき、巾着からいそいそと丸い重箱を取り出した。

「あっ!」
猛は驚いて制止した。
「お昼に食べてって言ったじゃん!」

まさかこの場で試食されるなんて思わなかった。
悲鳴じみた声を出し、焦って靴を脱いでいると、陽介が不満げな顔で言う。
「朝飯だ、朝飯。別に、いつ食ったっていいだろうが」
「だって、結構ガッツリめのおかずにしてるから」
「全然平気。朝からステーキでも食べられるし、俺」
言いながら、添えておいた割り箸を口に挟んで二つに開き、両手で重箱の蓋を取る。

「わあ、すっげーっ!」

旨そうと、口走りながらおかずを詰めた一の段を隅から隅まで眺めていたかと思ったら、不意に立ち上がってリビングに行く。
「何? もう。食べるの? やっぱり食べないの?」
「写真、写真。猛が初めて作ってくれた弁当なんだから写真撮っとかねえと」
陽介はスマホを片手に戻って来ると、おかずを詰めた一の段と、俵型に握ったおにぎりを入れた二の段を横に並べて写真に収める。
続いて弁当と自分を何枚も自撮りした後、ようやくメインの唐揚げに箸をつけた。

「……どう?」
猛は緊張しながら上目使いに伺った。
陽介は鶏皮が苦手なので、丁寧に皮を剥いでから、にんにくを効かせた醤油ダレで下味をつけて揚げた一品だ。

「うん。旨い。俺、こういう味好き」
「本当?」
「鶏皮嫌いだから、唐揚げ弁当って食ったことなかったんだけど」
「うん。だから、作ってあげるなら絶対唐揚げ弁当って思ってて」
手作りの良さは、食べる本人の好みに合わせて作ってやれる所だろう。
メインは市販の鶏唐は食べられない陽介の為に、鶏皮を除いた唐揚げにして、副菜は陽介の大好きなポテトサラダだ。

「ポテサラも陽介さん、キュウリ嫌いじゃん。だから茹でたブロッコリーにしてあるよ。
ブロッコリーなら食べられるよね?」
箸が止まらない陽介に寄り添って、猛はいつのまにかおかずを指差しながら注釈していた。

後は、ちゃんと鰹節と昆布で取った出汁で煮た筍と菜の花の煮物と、卵焼き。
卵焼きも、ちゃんと『甘くない』派の陽介仕様にしてあった。

「陽介さん、甘い卵焼き嫌いって言ってたよね?」
「ああ。うちの母親の卵焼きは甘くなかった」
「良かった。確かそんなこと言ってたし」

前に陽介連れてってもらった会席料理の八寸に、甘い卵焼きが入っていたことがあったのだ。
それを「甘いのは嫌い」だと言って、ひとくちかじっただけで残していたのを覚えていて良かったと、猛は目尻を緩めてほくそ笑んだ。

「超旨い。全部旨い」
陽介はリスのように頬を膨らませながら何度もくり返し呟いた。
そして、ふいに無言になって猛を上目使いに見据えたまま、ひたすら口の中のものを咀嚼する。
「……陽介さん?」
その沈黙に何やら不穏な雲行きを感じた刹那、陽介の喉がゴクリと音をたてて上下した。
次の瞬間、重箱を脇に置いた陽介に野犬のように飛びかかられて廊下に仰向けに転倒する。

「ちょ……っ、わっ! 痛っ、何……っ」

背中から倒れ込んで後頭部を打ち、猛は猛然と抗議した。
だが、言ってる側から噛みつくようにキスされて抗議の声ごと塞ぎ込まれる。

「んっ、……ふっ」

いきなり押し入ってきた熱い舌が縦横無尽に暴れ回り、猛の舌を絡め取ってきつく吸い、ほんの一瞬息継ぎをして、また食らいつくように唇を合わせる。
その間ずっと陽介の大きな掌が猛のワイシャツを捲り上げて素肌を擦り、あまつさえ両手で乳首を摘んで弄り始めた。

「駄目、だ……って、陽介さん!」

猛はかぶりを振って身悶えた。
これから朝のチェックアウト業務が待っているのに、最後までされたりしたら腰が立たなくなってしまう。
なのに、陽介は弄って立たせた乳首に吸いつき、舌の腹をぺたりと這わせるように下から上へ何度も舐めては歯を立てる。

「あっ、や……っ」

猛は咄嗟に顎を引き、喉を詰めて嬌声を堪えた。

だが、陽介にべろりと頬を舐められ、悩ましげに髪をくしゃくしゃにかき混ぜられて息が上がり、兆してしまいそうになる。

「陽介さん……っ!」

最後の最後になけなしの理性をかき集め、猛は本気で怒鳴りつけた。
途端に猛の上で好き勝手していた陽介の手もぴたりと止まり、二人分の荒い息が廊下に微かに響いていた。

「あー……っ、もう、なんでバレンタインなのにヤレねえんだよ」

ややあって、陽介が忌々しげに訴える。
それでもまだ未練がましく猛を抱きしめ、肩口に顔をうずめながら喉を吸ったり、頬へのキスをくり返している。

「来月のホワイトデーは絶対お前も休み取れよ?休み取って前の日からどっか行って、ホテルのスイートルームにしけ込むからな。絶対に」
「そんなの無理だよ。連休なんて」
「彦坂旅館はお前を過労死させる気か? 取締役代表に連休も取らせないブラック企業だったのか?」
「もう、馬鹿なこと言ってないでどいてよ」

と、猛は陽介がむっとして頭を起こした隙をつき、寝返りを打って陽介の下から逃れ出た。

「いつでもいいから、お重だけは洗って返してね」

たくし上げられたワイシャツの裾をスラックスに戻し入れ、猛は肩越しにせかせかと言った。
だが、陽介は胡坐をかいて不貞腐れたように項垂れている。

「わかったよ。じゃあ、ホワイトデーはお前が泣くまで咥えてやる」
「はあ?」
「絶対イカせてやらねえからな。後ろも弄って前もしゃぶって、お前がぐちゃぐちゃに泣き喚くまで後ろも入れてやんねえし。いいだろ? それで。ホワイトデーは三倍返しって言うか

らな」
「何それ。仕返し? お返しじゃないじゃん」

猛は眉を八の字に眉を開いて反論した。
思い通りにならないと、すぐにいじけて八つ当たりする。
こういう所は本当に子供じみていると思ってしまう。

とはいえ、男は敷居を跨げば七人の敵ありで、生き馬の目を抜くような金融業界を渡り歩く陽介が、自分とこうしている時だけは、
子供のように油断してくれている証でもあるのだろう。

「じゃあ、もう行くね」

猛は拗ねて返事もしない陽介の肩に手をかけて、そのこめかみにキスをした。
ちゅっと、小さく音をさせて唇を離すと、ぽかんとした目を猛に向けて、みるみるうちに赤面をする陽介がいた。




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