「ホワイトナイト」
番外編

決戦の14日~ホワイトナイト番外編(前編)~

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プレッシャーが半ぱない。
彦坂猛は2月14日を明後日に控えた12日の午後。
彦坂旅館の事務室で携帯を片手にため息を吐く。

経営コンサルタント兼ファイナンシャルプランナーとして
日本はもとより世界を股にして駆け回る成井洋介と
恋人として付き合い出して明後日が、
初めて迎えるバレンタインデー。

その一か月前から陽介は、こちらが聞いてもいないのに、
『俺はチョコはそんなに好きじゃない』
『ついでに言うなら、和菓子とかの変化球はもっとNG』
だの、
『酒は去年のお歳暮で腐るほど貰った』
『俺はこう見えてサプライズ好き』
だの、
脈絡のないラインが唐突に送られてくる。

この一か月間というもの
陽介の期待度が高すぎて胃に穴が開きそうだった。


「猛さん、暗い顔してどうしたんですか?」
猛があまりにため息ばかり吐くせいか、
女中頭の房子が猛のデスクの端に湯呑を置きつつ
訊ねてきた。
「ああ、……えっと。ううん。大丈夫。ごめんね、仕事中なのに」
噂好きの房子が携帯を覗き込んでくる気配を察して
猛は慌てて電源を切る。

何はともあれ、
これほど念押しされていて
『バレンタイン? ごめんね、忙しいから忘れちゃってた』
では済まされない。
というより、そんな言い逃れをした日にはどんな制裁が待っているか
わかったものではない。
ともかく当日何かしらリアクションさえすれば
きっと陽介は満足するのだと腹をくくり、猛は決戦の14日の朝、
陽介の自宅マンションを訪れた。



「おー、ちゃんと来たか」
と、玄関ドアを押し開けながら、陽介が満面の笑みで現れた。
だが、ほとんど寝起きだったのだろう。
髪はボサボサ。髭もそのまま。頬には皺になったシーツの痕がついている。
「まあ、とりあえず入れよ」
と、腹をボリボリ掻きむしり、上下のグレーのスウェット姿で猛を中へ招き入れた。

「おはよう。朝、早くから無理言ってごめんね」
日曜日とはいえ、旅館の若旦那というサービス業の猛には、
早朝から深夜まで通常業務が待っている。
陽介も夕方以降に仕事が入っていて、帰りは夜になるという。
だから、日曜日の朝五時三十分という恐ろしく早い時間に
十五分だけという約束で時間を作ってもらったのだ。

「はい、これ。バレンタイン」
なのに、いざ渡すとなったら怒涛のように気恥しさが増してきて
猛は咄嗟に目を伏せた。
小振りの手提げの紙袋をつっけんどんに突き出すと、
正面の男から「おおーっ」という、雄叫びのような歓声が上がった。

「何? 何? 見てもいい?」
「ヤダ、やめてよ。僕が帰ってからにして」

ただでさえ気に入ってもらえるかどうかわからないのに、
目の前でがっかりしたような顔をされたら立ち直れない。
「生ものだから、すぐ冷蔵庫に入れて、なるべく早く食べてね」
と、だけ言い置いて、さっさと退散しようとしていると、
背後でがさがさ中身を漁る音がする。




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