「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト22

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「え……っ?」 
「ガキん時は食えなかっただろ、葱」     
 伏し目に続けた陽介の声音は、不思議と優しく温かい。ジャケットの内ポケットから煙草を出して口にくわえ、陽介は火を点けながら口早に続けた。    
「食えるの? 食えねえの?」
「食べられますよ。……今はそんなに嫌いじゃないし」
「じゃあ、葱焼き頼むからな。あと、お前。飲み物はどうするよ」
「僕はビールでいいですけど……」
 陽介は茫然とした声を洩らす猛の視線を避けるように、顔の前にメニューを掲げた。直後に突き出しを運んできた女性店員に瓶ビールとグラスをふたつ、馬刺しや鯉の旨煮など郷土料理を注文する。 
「少々お待ち下さい」
 伝票を書き込み、店員が個室を去ると、ようやくメニューを畳んだ陽介が窓の外へと目をやった。くゆらせていた煙草を深く吸いつけ、テーブルに肘をつく陽介の顔が心なしか強ばっている。 

「僕のことなんて、忘れてるんだと思ってました……」
 猛は半ば呆然自失でひとりごちた。             
 陽介は十年前に別れたきりの幼馴染みのことなんて、とっくに忘れてしまっていた。だから陽介にとって、自分は今回の経営再建契約が初顔合わせの仕事相手。
 この数か月間、ずっとそのつもりで対応してきた猛は突然その関係性を覆されて、どうしていいのかわからなくなる。

「なんでだよ。俺はお前なんか知らねえなんて言ってねんだろ、最初から」
 陽介は火をつけたばかりの煙草を忙しなくもみ消し、つっけんどんに反論した。
「だって……」   
 再会以来、一度として陽介の口から昔の話は出なかった。懐かしいの一言さえなかったと、猛は拗ねて語尾を濁した。
 と、その時、個室のドアがノックされ、店員が注文していたビールと馬刺しをトレイに乗せて持って来た。同時に二人は居住まいを正し、猛は気まずく黙りこむ。

「まあ、……覚えたとも言ってねえけど」
 陽介の自嘲めいた呟きに、店員が卓に皿を並べる音が重なった。
「それに、忘れてたのは、お前の方だろ?」
「え……っ?」
 店員が給仕を終えて個室を出ると、陽介は猛のグラスにビールを注いだ。  
「俺は忘れたことなんかなかったぞ」   
 と、突き出しの小鉢に箸をつけ、うつむきがちにボソボソ続ける。




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