「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト20

 ←ホワイトナイト19 →ホワイトナイト21
「いいんです、彦坂さん。私は本当に大丈夫ですから」
「だけど……」
「成井さんも今日はありがとうございました。おっしゃって頂いたことは、やっぱり自分でもそうじゃないかなって思っていたことでした」  
「わかってたんなら、直さないと」 
 涙で光る長い睫毛をしばたかせている瀬田に更に追い打ちをかけ、陽介が諌めるように眉をしかめる。

「すみません。善処します」
 それでも瀬田はリスのように可愛い顔をくしゃくしゃにして微笑むと、素直に頷き返していた。
 その意外なまでの打たれ強さに、猛はあっけにとられていた。だから、彼女だったら、駄目出しされてもきっと自分で立ち直るだろう。そして、最後は陽介の要望にも見事に応えてみせるのだろう。

「……あの、じゃあ僕も今日はこれで失礼します。日本酒のパン、楽しみにしていますから頑張って下さいね」
「ありがとうございます。彦坂さんもぜひまた試食に来て下さいね」
 猛は瀬田と目と目を交わし、陽介の隣で自分もコートを着込み始める。すると、先に帰り支度を済ませた陽介の顔を、ちらちら見上げて瀬田が訊ねた。  

「あの、もし良かったら」        
 と、口にしかけて一旦深く息を吸い、陽介のコートの袖を掴んだ。           

「お店のことで相談したいこととかあって。良かったら、ご飯食べていきませんか? すぐに用意しますから」               縋るように一気呵成に言い募り、激しく息を喘がせる瀬田を、陽介は驚いたように見つめ返した。 
「……相談? 今から?」                              
 陽介は訝しげに聞き返したが、瀬田が何を求めているかは猛の目には明らかだった。瀬田はこのあと陽介と、ふたりきりになりたいのだ。
「あの、じゃあ僕は、お先に失礼します」
 この場合、あきらかに自分は邪魔者だろう。いたたまれなくて慌てて勝手口から出ようとすると、陽介に腕を掴まれる。       

「待てって。勝手に帰るなよ」
「えっ? でも、だって……」   
「瀬田も今日はもう遅いから、また今度聞く。何なら後でメールしてくれ」
 陽介はごく事務的に瀬田に告げ、申し訳程度に彼女の肩を軽く叩いた。
 そして、瀬田の気持ちを知ってか知らずか猛を肘で押しながら、早々に厨房を後にする。猛は最後に背後をふり仰いだ時、こっそり目元を拭った瀬田の仕草に胸をつかれ、かける言葉を失っていた。   





にほんブログ村
にほんブログ村 BL小説

小説投稿サイト【 カクヨム 】でも、
『東京ラプソディ』という、昭和初期のカフェーを舞台にした、レトロなBLを書いています。
東京ラプソディの【 カクヨム 】ページは→ こちら から
スポンサーサイト



 関連もくじ一覧 ▼ 
総もくじ 3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ 3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ 3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ 3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ 3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ 3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ 3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 電子書籍関連
総もくじ  3kaku_s_L.png ホワイトナイト
総もくじ  3kaku_s_L.png ほんとのことを言ってくれ
総もくじ  3kaku_s_L.png 夜のギヤマン
総もくじ  3kaku_s_L.png 死か降伏か
総もくじ  3kaku_s_L.png 咲かない桜の桜守
総もくじ  3kaku_s_L.png 向かい風を行く
総もくじ  3kaku_s_L.png 一緒にいようよ
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
【ホワイトナイト19】へ  【ホワイトナイト21】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 現在非公開コメン卜投稿不可です。
  • 【ホワイトナイト19】へ
  • 【ホワイトナイト21】へ