「ホワイトナイト」
第三章

ホワイトナイト19

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 今年の三月に帰郷して、それからというもの仕事仕事で夜に出歩くこともなかった猛は、久しぶりに見る夜の街道の賑わいに改めて驚かされた。       
 以前は日が暮れると同時に店仕舞いする食事処がほとんどで、旅籠の軒灯りだけがひっそりと灯る薄暗い街道だった。それがたった半年で居酒屋やカフェだけでなく、夜の九時近くなっても土産物屋まで営業している。 

 外灯に照らし出される石畳をそぞろ歩く若いカップル。
 ソフトクリ-ムを舐めながら、土産物屋をひやかす若い女性のグループや、赤ら顔のツーリング客。         
 陽介が素泊まりプランを奨励したのは、古めかしい宿での食事を好まない客を、こういった食事処の夜間営業に繋げる意図もあったのだろう。陽介ひとりが帰ってきたというだけで、こうまで街が変わるものかと圧倒される思いがした。   

 この街にとって陽介の存在は大きい。
 その事実を、いつか芹沢会長が評価してくれることを祈りたかった。

 とはいえ、新酒を使った新商品の開発中だという小さなパン屋の厨房で椅子に腰かけ、気難しい顔で餡パンを食む陽介を見ているうちに、無償に腹が立ってくる。   
「そんな恐い顔しないで下さい。店長さんが怯えてるじゃないですか」 
 猛は陽介を小声でたしなめ、店長の瀬田典子に微笑みかけた。 
 今回新商品を手懸ける事になった彼女は、猛が見ても痛々しいほど緊張しながら陽介の判定を今か今かと待ち構えていた。
「心配しないで下さいね。大体この人、いつもこんな顔してますから」
「そんな。……全然大丈夫です。意見とか感想とか、何でもどんどん言って下さい」    
 健気な笑顔が可憐な彼女も陽介の起業支援を受けるために、神戸から移転してきた新進気鋭のパン職人だ。       
 天然酵母とオーガニック素材にこだわった奥深い味わい。 
 古民家を改築した店の造りが街道の街並に違和感なく溶けこんでいて、地元の人間にも評判の店にまで成長していた。ショートの髪を三角巾ですっぽり覆い、瀬田が落ち着かないようにエプロンの裾を繰っていると、陽介がおもむろに口を開いた。 

「餡に酒粕を加えたって、説明されればそうかと思う程度じゃ駄目だな。これじゃ全然、日本酒を使ったパンとは言えない」
 陽介にため息混じりに言い放たれて、猛は顔面蒼白になる。文字通り背筋が凍る思いをしながら、必死に瀬田を擁護する。   
「そんなことないです。おいしいですよ!」  
「別にまずいとは言っていない。印象が薄いっつってるんだ、俺は」
 茫然自失で固まっている瀬田の前で、陽介はシンプルな丸い餡パンを指でつついて渋面を浮かべる。
「瀬田さんは見た目に凝るのは嫌がるけど。今回の企画は女性がターゲットだし、期間限定なんだからさ。もうちょっと、見た感じのインパクトも考えてみて」
「はい……」
 結局見た目も味にも駄目出しをされ、瀬田は悄然と肩を落とした。
 しかし陽介はといえば、そんな瀬田にはちらりと視線を投げたきり、無言で立ってコートに腕を通し始める。ここまで全否定して何のフォローもないのかと、さすがに見かねて前に出ると、瀬田がそれを制するように二人の間に割って入った。 




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