「夜のギヤマン」
第二章

夜のギヤマン7

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「それから、私。昨日大きな本棚買ったんだけど。組み立てるのとか手伝ってぇ。私一人じゃ絶対無理ィ」
 と、あからさまに自宅に誘う彼女の頼みも快諾し、訪ねる日時の約束もその場ですぐに交わしていた。
 一人暮らしの女の家へ行く事に何の躊躇も見せない鬼島の態度は恋人同志のそれでしかない。やはり、この押しの強いスーツの女が鬼島の恋人なのだろうと、神谷はしゅんと肩を落とした。

 それにしても、今まで気にも止めずにいた事がどうしてこんなに気になるのだろう。鬼島が誰かと話をするたび、隣の恩田と同じようにイライラしたり、そわそわしている。ふいに我に返った神谷が自分で自分を訝かっていると、別の女がカウンターに身を乗り出させた。

「ねえねえ、私。この前やっと車の免許取れたんだけど、路上はやっぱり恐いのよ。だから一緒にドライブ行こう?ねえ、いいよね?匠。ねえ、お願い」
 顔の前で両手を合わせた小柄な女は茶髪のショートカットに大振りのピアス。
 先程の女よりも若干若いその客は、仇のように彼女を睨む起業家風の先の女を鼻で笑っていなしている。その後もしつこくごねて鬼島に甘え、ドライブデートを鬼島に承諾させていた。
 途端に憎々しげに顔を歪める件の女を横目にしつつ、茶髪の女はせせら笑いさえ浮かべて見せる。そのあからさまな女のバトルに恩田も唖然としていたが、神谷も二の句が継げずにいた。   

「……何なんですか?鬼島さんのあのモテっぷり。っていうか、あの八方美人っぷり」 
 神谷は傍らに立つ堤にひそひそ訴えかける。 

「まあ、あいつはああ見えて面倒みがいいからね。男手が欲しい時とかに、あんな風にコキ使われてるみたいだよ」 
 いつもの事だと堤は笑って答えていたが、彼女達が鬼島狙いでいる事ぐらい鬼島にだってわかるだろう。
 わかっていながらそれぞれ誘いに応じているなら、節操なしとしか言い様がない。そのうえ何やら恩田にまで、気がある素振りでサービスしている。
 神谷同様あっけにとられる恩田を促し席を立つと、神谷は堤にカードを手渡す。
「すみません。お勘定をお願いします」
「えっ?もう帰っちゃうの?」
 驚く堤の肩越しに目を剥く鬼島もちらりと見えたが、神谷は咄嗟に顔を背ける。

 目つきが悪くて強面なのは見た目の話で、根は純粋で真面目なのだと思っていた。
 なのにやっぱり見た目通り女に目がない、ただの下半身男だったというのだろうか。神谷は鬼島に裏切られたような腹立たしさを覚えながら、恩田共々うつむきがちにバーを離れた。  




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