「ほんとのことを言ってくれ」
第三章

ほんとのことを言ってくれ26

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「俺が一人で帰るわけないだろう」
 野村が失笑しながら艶冶に囁く。

「えっ……?」
 手首を掴む野村の指に目を落とし、数馬は再び目を上げた。
 野村は何を言おうとしたのか。何をしようとしているのかと、問い質すように瞳を激しく戦慄かせていた。

「俺はてっきり嫌われたんだと思っていたよ。きっと、お前が俺に理由も言いたくないような事をしたんだろうって、諦めて……」
 数馬の肩に手を置くと、野村が自嘲を浮かべて顔を背ける。その横顔には見た事もないような深い懊悩がにじんでいた。
「だけど、お前が困っているのを見ないふりもできなくて」
 結局、うざがられても世話を焼かずにいられないんだと、虚ろに頭を左右に振った。

「弘く、……ん。そんな」
 数馬は夢中で取り縋り、野村の肩を掴んだ両手に力を込める。自分の嘘が野村にこんな顔をさせたのかと思うと、張りさけそうに胸が痛んだ。
「嫌になんてなるわけだろ!?だって、僕は弘君のこと……っ」
 咄嗟に声を荒げて息まいた刹那、冷ややかな目で一瞥をくれられ、数馬は気圧されるように息をつめる。

「弘……、君」
「じゃあ、好きか?俺が」
 しかし、うってかわって眦を蕩けさせ、野村が続きをそそのかしてくる。数馬は下唇をきつく噛みしめ、上目に野村を睨み据えた。
「……うん、好き」
 わかっているのに言わせて喜ぶ悪どい男を鋭く睨むと、少年のように野村が笑みをこぼれさせる。 
「数馬……」
「ほかの誰にも渡したくないぐらい、弘君のことが本当に好き」
「俺もだ」
 俺もそうだと囁きを吐息に紛れさせ、数馬を胸に抱き込んだ。 

「……弘、君」
「愛している、数馬……」     
 閉じこめられた厚い胸も、髪をかすめる野村の吐息も燃えるように熱かった。 
 それでも背にまわされた腕の太さ、力強さをどこか遠くに感じたまま、数馬はうろんに両目を瞬かせていた。

 けれども、行きの電車であんなに遠くに感じた野村を頬で直に感じるうちに、じわりと涙が溢れ出てくる。数馬は想いのたけを込めるように野村をきつく抱き返し、その胸の中に泣き顔をうずめる。
「……大好き、弘君」
 今やっと、言葉と気持ちがひとつになった。
 数馬が語尾を擦れさせると、応えるように野村が腕に力をこめる。 
 側廊の高い窓から射しこむ西日が、ひとつになった二人の影を床板に濃く長く映し出す。ステインドグラスの天使達を極彩色で投影し、互いの心音さえも聞こえるような聖堂で、数馬は野村と融けあうように抱きしめあった。              




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