「ほんとのことを言ってくれ」
第三章

ほんとのことを言ってくれ24

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「弘君……?」
 野村の優美な指先が空を切って遠ざかる様を食い入るように目で追っていると、野村が先に歩き始めた。
「教会も写真に撮るんだろ?」
 野村はその手をスラックスのポケットにつっ込み、立ちすくむ数馬を肩越しに招いた。

数馬は黙って野村に追いつくと、落葉樹が斜に影を落とす小径を抜けて、聖ヨハネ教会まで足をのばした。
急勾配の白い屋根の一角に鐘楼が設けられ、その頂上に十字架が掲げられている。正面の白漆喰の外壁が夕日に赤く映えていた。

「すごい綺麗……」
 数馬は思わずひとりごちると、楢の扉を押し開けた野村に続いて進み入る。
 板張りの床には玄関から正面の祭壇にかけて緋色の絨毯がまっすぐに敷かれ、左右に木製の長椅子が並んでいた。
 大理石の祭壇に飾られた白百合。その奥の壁には磔にあうキリストの十字架が厳かに祭られていた。日没間近とあってなのか、観光客は見られない。

「暗くないか?東さんも必要だったら電気点けてくれって言ってたけど」
 野村はカメラを構える数馬に言った。
けれども西日に照らし出され、壮麗に光り輝く左右の壁のステインドグラスを撮影するには薄暗い方がいいかもしれない。
数馬は断りを入れるために、カメラを下ろして振り向いた。そして同時に、そこで目にした野村の姿に息を呑み、返事を忘れて凍りつく。

「……どうした?」
 と、訝る当の本人に答える事もできずにいた。野村は数馬の異変に眉をひそめ、手元で開いたリーフレットを閉じて鞄にねじ込んだ。
 それは、この教会で挙げる事のできる結婚式の案内用のリーフレット。入り口近くの壁に置かれたコンソールテーブルの上に用意されていたそれを、数馬も入ってくるとき目にしていたのだ。  

「ううん。……何でもない」
 数馬は顔色をなくしたままで、ゆっくり首を左右に振った。
ウェディングプランのリーフレットを持って帰るという事は、野村があの彼女との結婚を視野に入れ始めたという事だろう。数馬は頭からすっと、血の気が引いていくのを感じていた。

 あの華やかで気品高い色白美人の彼女であれば、軽井沢での結婚式もきっと映えるに違いない。
 純白のドレスに花嫁のブーケ。彼女とともに参列者からのライスシャワーを浴びながら、教会を出てくる野村の笑顔が目に浮かぶようだった。 
「そっか。……やっぱり弘君、結婚するんだ。良かったね」            
 数馬は抑揚のない声で言い募りながらデジカメを切り、ビジネス鞄につっ込んだ。もう隠しようもないほど声が上擦り、体の震えがおさまらなかった。それでも頑なに唇を引き結び、肩をいからせ鞄を閉じる。




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