「ほんとのことを言ってくれ」
第三章

ほんとのことを言ってくれ22

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「でも、今度県から農地を借りて事業拡大なさるんじゃないんですか?」
 販売先も未定のままで生産量だけ増やすというのは解せないと、野村は東を問いつめる。
「いえ、あの借用地で栽培する葡萄はワインじゃなくて、焼酎用の原料なんです」
「えっ?葡萄の焼酎?」
 思いがけない東の答えに数馬が声を裏返した。何でも、葡萄と麹を発酵させた葡萄焼酎の醸造を東が成功させたらしかった。   
「葡萄の焼酎なんて初めて聞きました……」
「口当たりは焼酎らしい清涼感があるんですけど、後口は白ワインのような酸味とアロマがあるんです。焼酎は女性に敬遠されがちですが、これは女性にもお薦めできます」
 興味を示した数馬に東がにっこり微笑んだ。
 東は今回、葡萄の栽培収穫からその焼酎の醸造までを授産施設に一任するため、修道院名義で土地を借りたのだと言う。    
「確かに前よりは増産できるようになったとはいえ、元々のワインの生産量自体が微量ですので、授産施設の方々にお渡しできるお給料も微々たるものです。でも、修道院よりも広い葡萄園で、栽培から焼酎の醸造までを一括して授産施設の所員さんで行なえば、もっと収益を上げられますから」        
 その分、授産施設の所員の所得がアップすればと語尾を濁し、東は切なげに目を伏せる。

「実際、授産施設では縫製や電気部品の組立などの単純労働が主でして、所員は一日休みなく働いたとしても、日給数百円にしかなりません。でも、葡萄焼酎の製造販売を軌道にのせる事ができれば、その月収を十倍に増やす事ができるんです。私どもでは修道院ワインの販売と管理、そして葡萄焼酎の製造販売を委任する事によって、所員の方々の経済的な自立の支援になればと考えています」  

「なるほど。それでは醸造までは修道院で行い、そのワインの販売管理と新しく借用した農地で行なう葡萄焼酎の製造販売は授産施設に一任する形になるんですね?」
「ええ。修道院ではワインは必需品ですが、焼酎を醸造する必要はありませんから」
 屈託のない笑みを浮かべて答えた東に、野村がすかさず畳みかける。 
「わかりました。では、授産施設への融資を条件に、当社に修道院ワインと葡萄焼酎の専売権をお譲り頂く事は可能でしょうか」  
「えっ?」
 野村の出し抜けの提案に、数馬が隣で目を剥いた。
 野村の会社に専売権など取られたら、『向坂』が仕入れられなくなってしまう。

一体何を言い出すのかと、数馬は隣の野村に体を向けた。正面の東も面食らったように澄んだ両目を瞬かせている。しかし、野村は怯むことなく身を乗り出させて話し続けた。 




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