「ホワイトナイト」
第二章

ホワイトナイト12

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「あ……、ありがとうございます」       
 猛は仰け反るように身体を離し、望月のスーツの胸に手をついた。しかし、望月は流れるような仕草で猛のその手を引き寄せ、再び肩に手をかけた。  
「早速なんだけど、利き酒会の会場になる『蝶の間』に案内して頂いていいですか? あと、彦坂君の写真もぜひ」 
「こいつの写真なんか必要ねえだろ」
「だって、こんなキレイな若旦那が接待してくれるってのはポイント高いよ。女性誌に載せるコラムなんだし、アピールしない手はないだろう?」    
 むっとして口を挟んだ陽介を、望月は軽々いなして猛に優しく微笑みかける。
「こちらには昨晩からお世話になってましたけど、予約もしてない男の一人客を嫌な顔ひとつしないで歓待して下さったんで感心してたんです。チェックインだって五時過ぎてたのに、夕飯の支度まで気持ち良く応じてくれる所なんて、今時なかなかないですよ」  そう言ってカメラの用意を始めたものの、ふいに眉尻を下げて付け足した。
「覆面記者なもんですから、身元を偽って泊まったりして申し訳なかったですね。でも、いい記事書かせてもらいますから」
「……そんな。こちらこそ、プロの記者さんにそんな風に言って頂けて光栄です」     
 慌てて首を左右に振りながら、いっそう顔を赤らめていると、望月がそっと頬に触れてきた。

「じゃあ、ちょっと上向き加減にしてくれる?」
 ふいに声のトーンを低くして、猛の顔の角度を調節する。
 それまでの柔和な雰囲気を一変させて、猛のシャツやネクタイの位置を整える望月の真摯な眼差し。爪まで美しく磨かれた彼の指に、ドキドキしながら前髪を整えられていると、後ろであからさまな舌打ちが聞こえる。

「……成井さん?」
 猛は反射的に振り向いた。すると、渋面を浮かべた陽介の背後の襖が僅かに開き、「すみません」という房子の声が控えめに聞こえる。                     
 「猛さん。もし宜しければ皆さんのお昼ご飯、ご用意させて頂きますけど」 
「えっ? ウソ、もうそんな時間?」
 猛は腕時計に目を落とし、陽介と望月にも確認する。
「どうされますか? もし良かったら、成井さんも望月さんもご一緒に」
「ああ、俺。先約あるから別にいいや」            
 しかし、陽介は望月と相談もせずにすげなく断り、鞄とコートを脇に抱える。そして、いつのまにか猛の肩にかけられていた望月の手を、すれ違いざま払い落とした。
「怖っ」   
 おどけて両手を掲げた望月を、陽介が肩越しに睨みつける。
 けれど、廊下の端に咄嗟に退く房子に無言で会釈を残し、そのまま足早に去ってしまった。

 今度はいったい何が気に入らなかったのだろう。
 いい加減陽介の機嫌の乱高下にも慣れてはきたが、いつも理由はわからない。肩をそびやかせた陽介の背中を、猛が侘しく見送っていると、望月が今度は房子にカメラを向ける。  




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