「ホワイトナイト」
第二章

ホワイトナイト10

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「あの……」
 猛は戸惑いながら二人を交互に眺めたが、彼の方から腰を上げ、猛に歩み寄ってきた。
「初めまして。陽介の友人で、望月敬司と申します。今日は突然ですみません」      
 唖然としている猛に名刺を差し出すと、望月が人好きのする微笑を浮かべた。 
 それほど身長はないものの、陽介同様頭が小さく首が細く、華やかな顔立ちの望月が身動ぐたびに、甘く濃厚な香水がそこはかとなく鼻孔をくすぐる。猛は鼓動が逸ってくるのを感じながら、ジャケットの内ポケットをあたふた探った。      

「申し訳ございません。今、ちょっと手元に名刺がなくて……」
「名刺ぐらい持ち歩いとけよ。基本だろうが、そんなのは」 
 すると、すぐさま鬼の首を取ったように叱責を飛ばす陽介を、望月はにこにこしながら眺めている。
「お噂はかねがね、こいつから」
 猛の耳元に顔を寄せるなり、望月が含み笑って囁いた。その微かな吐息が撫でるように頬をかすめ、猛はいっそう顔を上気させた。
 宿泊客でも、たまにこうして話す相手との物理的距離が異様に狭い人がいる。それでも悪気がないのはわかっているため、猛が必死に愛想笑いを返していると、陽介が望月の首根っこを引き戻した。

「俺がいつ、こいつの噂なんかしたよ。ふざけんな」
「あっ、噂じゃないか。ノロケだもんな」
「あの、すみません。失礼ですけど、お二人は今日はどういったご用件なんですか?」
 二人の親密さは理解できた。だが、さっきから二人で自分をダシにして、じゃれあっているようにしか思えない。猛は半ば辟易しながら二人の間に割って入って促した。

「こいつは俺の大学の同期でフリーのライター。敬司がコラムの連載持ってるファッション誌で、利き酒会の宣伝記事とか掲載してくれる事になったから。後でお前の企画内容の説明と、彦坂旅館の館内の案内をしてやってくれ」             
 陽介はタブレットの電子書籍で大人のキャリア女性向けの華やかなファション誌を開き、彼のコラム欄を猛に見せた。
 どうやら望月自身が足を運んで確かめた全国のお薦め旅館の連載らしく、彼が泊まった旅館やホテルの客室から料理、スタッフの写真に至るまで、フルカラー写真付きで丁寧に評されている。

「……このコラムに、うちの旅館を紹介して下さるってことですか?」
 突然の話にきょとんと小首を傾げる猛に、陽介は苦虫を噛みつぶしたような顔で続けて言った。   
「だから、例の利き酒の企画。お前ん所に依頼することに決めたから」  
「えっ……?」  




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