「ホワイトナイト」
最終章

ホワイトナイト108

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 いつもは人通りのない裏路地に軽トラックが列をなし、軽いエンジン音を響かせている。
 石畳の敷石道を冴々と照らす白銀の月。
 旅館の勝手口から杜氏と男衆らが桧作りの酒樽や瓶のケースを運び出し、次々荷台に積み上げていた。

「今日はお疲れ様でした。どうぞまた宜しくお願い致します」
 猛は利き酒会から引き上げていく杜氏達と挨拶を交わし、笑顔で彼らを見送った。
 売り上げはどの蔵元も盛況で、杜氏の顔も晴れ晴れと明るい。猛も幹事としての達成感を噛みしめていると、背後から声をかけられる。
「……どうも、今日はお世話になりました」
「藤崎さん」
 振り向いた猛に小柄で初老の男がおずおず歩み寄り、角帽を取って頭を下げた。

「こちらこそ、お世話になりました。藤崎さんの新酒は甘口で、シャンパンみたいに爽やかですから、女性の方には特に評判だったみたいですね」
 試飲と購入を兼ねた女性客が行列していた藤崎のブースが脳裏をよぎると、あらためて熱いものがこみあげてくる。
 芹沢製薬に圧力をかけられ、一時は参加も断念していた藤崎だったが、実直な彼が丹精こめて仕込んだ酒をこ紹介することができて良かったと、猛はしみじみ双眸を細める。

「昨年末から散々不義理をしたっていうのに私どもにまで、また声をかけて下さって。本当になんて御礼を言ったらいいのか……」「もう、やめましょうよ。藤崎さん。うちも皆さんがいらして下さったお陰で、お客様にも喜んで頂けたんですから」
 平身低頭する彼を、慌てて制して猛は答える。 

「あの時の藤崎さんの苦しい立場は理解していたつもりです。だから、もうそんなに謝らないで下さいよ」
「ありがとうございます。本当に、芹沢会長は自分の系列以外の会社が少しでも儲かると、すぐ嫌がらせしてきたもんですが……。猛さんも陽介さんも、皆が儲かれば自分のところも潤うからっておっしゃって下さるんで有り難いです。前よりずっと仕事がしやすくなりました」
 藤崎は感涙にむせびながら、何度も拳で頬を拭った。そんな職人の手の中で杜氏の証の角帽が、いじらしく揉みしだかれている。

 『悦人悦己』という信念を貫いた陽介の執念のTOBが、芹沢会長の圧政から多くの職人達を救済した。
 解き放たれた彼らの目の輝きに触れるたび、猛は陽介の存在の大きさを実感せずにはいられなかった。

 やっぱり自分のような平々凡々な人間が独占しようとするなんて、おこがましいのかもしれない。分不相応だったのだ。猛は藤崎を門の外まで送り出し、諦観とも自嘲ともつかない笑みを浮かべた。  
 そう考えれば、陽介に腹をたてる自分の方が身の程知らずということにもなる。  

 猛は泣き出しそうになりながら、本館二階の『蝶の間』まで戻ってきた。
 それでも、片付けに追われる仲居と廊下ですれ違うたび労をねぎらい、宿泊客には笑顔で声掛けしていると、蝶の間から望月と綾が並んで出てきた。




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