「ホワイトナイト」
最終章

ホワイトナイト107

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「……ヨウスケ?」
 と、たどたどしく訊ねる彼女は確か、陽介がホームステイ先を世話したというフランス人の留学生。そして、森下の居酒屋で陽介に熱烈な再会のキスを降らせた美少女だ。
 猛は結局そういうことかと失笑した。    
       
「じゃあ、ちょっと急ぎましょう。望月さん、綾さん。二階もそろそろ、お開きの時間みたいですから」
 玄関先で立ち尽くしている陽介からは目を背け、猛は率先して階段を上り始める。望月も綾も陽介と猛を交互に見比べ、階段途中で戸惑っていたが、猛は構わず足を速めた。

 互いの気持ちを確かめ合ったあの夜以来、陽介は東京出張が続き、電話やメールで話はしても直接会うことはできずにいた。だからこそ今日という日を指折り数えて待っていたのに。
 その間、当の本人は別の女のご機嫌取りに精を出していたのかと思うと、いっそ笑いがこみあげてくる。

「猛……っ!」  
 階下で苛立つような陽介の声がしていたが、猛は足音も荒々しく二階の廊下を渡り切り、再奥の『蝶の間』に飛び込んだ。
「猛さん」
 彦坂旅館の法被を着た山岸が猛に気がつき、ほっとしたように微笑むと、小走りに歩み寄ってくる。
「もうじき閉会の時間ですので、最後に皆さんにご挨拶して頂けますか?」
「わかった。それから、後で望月さんと綾さんに本館のバーのドリンクチケット、渡しておいてくれるかな。すぐに二人もいらっしゃるから」
「望月さんもいらっしゃったんですか?」
「ああ、うん。……本当に今さっき到着されたところだけれど」
「あの、でも陽介さんは、お見えになられていないんですよね」   
 山岸も陽介目当てに集まった取材陣に気兼ねしたのか、声をひそめて問い質してくる。
 しかし、猛はそれには答えず、座敷の隅に設けられた壇に上がり、スタンドマイクのスイッチを入れた。壇上から座敷をぐるりと見渡せば、ビュッフェ料理もほとんど空になっていて、帰り支度をしていた参加者の姿もあった。 

「本日は『第一回南木曽・地酒新酒利き酒の会』に足をお運び頂きまして、心より御礼を申し上げます。当旅館の代表取締役の彦坂でございます」                  
 猛がマイクを持って挨拶を始め、壇上で深く一礼すると、疎らながらも拍手がわき、カメラのフラッシュが数回焚かれる。その後もつつがなく口上を述べ、参加者による和やかな拍手に包まれながら猛が壇を下りた時、大広間に駆け込んでくる男がいた。

「陽介さん……」
 肩で息をしながら人垣をかき分け、陽介が座敷に顔を巡らせている。 
 と同時に、陽介に気づいたマスコミが一斉に彼を囲いこみ、カメラやマイクを向け出した。
 膨大な量のフラッシュを浴び、不躾にマイクを突きつけられて立往生する陽介を、利き酒会の参加者までが携帯写真に写し始める。その間ずっと陽介の目は、あてどなく会場中を彷徨い続けた。

 けれども、猛は帰路につく客に紛れて廊下に逃れ、うつむきがちに座敷を離れる。
 その場かぎりの弁明なんてされたくもないし、聞きたくもない。もしかしたら陽介の本命は彼女の方で、つまみ食いは自分の方かもしれないと思えばなおさら真実からも目を背け、逃げ出さずにはいられなかった。




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