「ホワイトナイト」
最終章

ホワイトナイト106

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「すみません、ちょっと失礼します」
 綾に断りを入れて耳にあてると、
「そろそろ、閉めの挨拶を猛さんから」
 という、二階の蝶の間にいる山岸からの呼び出しだった。 もうそんな時間と驚きながら時計を見れば、既に九時近くになっていた。

 スタンプラリーの景品を受け取りに来る訪問客もひと段落ついている。しかし、携帯でメールを確認すれば、陽介からはやはり時間内に到着するのは難しいという連絡が入っていた。
 残念ではあるけれど、分単位でスケジュールをこなす多忙な彼だ。仕方がないと、猛は自分に言って聞かせる。

「それじゃ、綾さんももう二階に合流して下さい。ぼちぼちお開きみたいです」   
「えっ? じゃあ、望月君も陽介さんもやっぱり間に合わなかったの?」
「お二人とも時間内に来るのは難しいかもっておっしゃってたんで、しょうがないです。残念ですけど」
 エプロンを外した綾を促し、猛が玄関脇の事務所から二階の広間へ移動しかけた時だった。
「今晩は」
 という朗らかな声がして、玄関の引き戸が開く音がした。猛と綾がほとんど同時に振り向くと、望月がたじろぐように仰け反った。

「……望月さん」
 呟いた猛の声には落胆がにじみ、綾も肩を落としている。
 それでも望月は呑気に笑い、自身の頭に手をやった。
「本当はもっと早く来れたんだけど、途中大雪で電車が停まっちゃってさ。こんな時間になっちゃったんだ」
「そうだったんですか。大変でしたね。なかなかお見えにならないんで心配していたんですけど、お越し頂けて嬉しいです」                  
 こちらはほとんど降らなかったが、陽介も道中で雪に巻き込まれているかもしれない。それで遅れているのだろうか。猛は陽介を案じながらも望月から荷物とコートを預かった。   
 今日の望月は光沢のあるグレースーツにウィングカラーの白いシャツ。シルバーのタイにワインレッドのポケットチーフとという、パーティ仕様の装いだった。
 この華やかな美貌の彼がもっと早く顔を出してくれたら、女性の参加者も違った意味でこの会を楽しめたはずなのに。猛はつくづく惜しいと眉を下げた。

「会は九時半でお開きですけど、宿泊される参加者の方には、このあと本館のバーでも新酒をお出しすることになっています。宜しかったら、いかがですか? 望月さんと綾さんには後でチケットを差し上げますから」                       
「本当に? ヤッタ! ありがとう。もう今日は呑めないのかと思ってたから嬉しいよ」
 頬をほころばせた望月と後に続く綾の二人を二階の蝶の間に案内するため、階段の手摺りに手をかけた。そのとき、再び玄関の戸が開かれて、氷点下の夜気が足元を通り抜ける。

「お疲れー」
 という、間延びした男の声と戸を閉める音。
 プラチナブロンドの美少女を小脇に抱えた陽介が、階段に並ぶ猛と望月と綾を見るなり凍りついた。猛も女の尻に張りついた陽介の手に目をやると、胸をナイフで刺されたように息を呑んだ。

「陽介さ、ん……」
 咎めるような猛の声と視線に気がつき、陽介は弾かれたように頭の横に両手を掲げる。まるで突然銃口を向けられでもしたかのような陽介を、隣の少女が訝しそうに見上げていた。




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