「ホワイトナイト」
最終章

ホワイトナイト103

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「望月さんからは少し遅れるっていうメールを頂きました。陽介さんも来れたら来るって言ってましたけど、お忙しいみたいですから」              
 猛が内心ドキリとしながらも、ごく事務的に笑って答えた。
 陽介と想いが通じあってからというもの、二人で綾に背いたような後ろめたさに苛まれ、陽介の話をしようとすると不自然に声が上擦った。猛は綾が洗った湯呑みを布巾で拭く振りで、それとなく彼女に背中を向ける。 

「でも、今日は陽介さん目当てのお客様も大勢いらっしゃるんだし。自分が行かなかったら猛君の顔が立たないことぐらい、陽介さんだってわかってるでしょ。だから、大丈夫だとは思うんだけど」
 綾は猛の顔を覗きこみ、励ますように微笑みかけると、今度はシンクの曇り汚れをスポンジで擦って磨き始めた。
 どうやら気になったら手が止まらなくなるタイプらしい。猛は半ば呆れて眉を下げたが、そんな彼女を女性としても仕事仲間としても好ましく思って眺めていた。

 綾の言う通り、二階の大広間では東京からタレントのレポーターを携えてのテレビ取材が入っており、陽介の登場を今か今かと待ち構えている。

 陽介はTOBを圧倒的勝利で成立させた後、芹沢製薬との合同記者会見を彦坂旅館で行なうと言い出した時は、猛も山岸も房子もどうなることかと肝を冷やしたものだった。

 その記者会見が利き酒会が開かれている『蝶の間』で行なわれ、取材に訪れた国内外のマスコミによって、『蝶の間』の絢爛豪華な建造美も全世界に発信される所となった。
 そんな陽介の思惑通り、彦坂旅館にも世界各国からの取材依頼が殺到し、今では国内外のVIPを迎える国内有数の名旅館と言われるまでになっている。今回の利き酒会も多くのメディアに取り上げられ、キャンセル待ちが出るほどの盛況だった。

「陽介さんには本当にお世話になって……」
 思わず感慨深く呟くと、綾が驚いたように眉を上げる。
「あら、お世話になんて他人行儀なこと言うと、また拗ねるわよ? 陽介さん」
 綾は『他人行儀』を強調しながら破顔して、泡まみれの両手をシンクの水道で洗い流した。
「えっ? あ、の。……陽介さんが拗ねるって、なんで……」

 一瞬、陽介と恋人同志になった事を冷やかしたのかと焦ったが、もちろん誰にも話していない。
 ましてや綾には言い出せず、綾の前では陽介は十年来の友人であり、経営コンサルタントとして接してきていたはずだった。しかし、綾は口ごもる猛に笑顔で続ける。
「そんなに警戒しなくてもいいわよ。だって、猛君とつきあう事になったって、ちゃんと陽介さんから聞いてるし」  




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