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【  2017年07月  】 

向かい風を行く 35

第四章

2017.07.01 (Sat)

 「……ヨシキさんは」甲斐が一歩前に踏み出した直後、廊下で筧が美貴と甲斐を呼びつける声がする。と同時に、開いた戸口から榊原が顔をひょいと覗かせた。「今日はもう、そのぐらいにしてやって。こいつもあんまり寝てないっていうし」「榊原さん」「お前もバイト、来週いっぱい休んでいいから。ちゃんと寝て食って、建て直して来い」美貴の肩越しに甲斐にも告げて、榊原は顔を引っ込めた。そんな彼を追うように、美貴の傍らをすり抜...全文を読む

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向かい風を行く 36

第四章

2017.07.02 (Sun)

 それでもその日は朝から神社で行なわれたリハーサルに、甲斐は最初から参加した。祭の当日は日没とともに、開始を報せる大太鼓が勇壮に打ち鳴らされ、拝殿前で巫女の神楽舞が奉納される。その後、境内の参道で新入りから順に手筒花火が披露される。リハーサルでは、手筒花火の演者の作法や、それぞれの立ち位置、火薬の取り扱いに至るまで、確認作業が綿密に行われる。手筒花火は、ひとつ間違えれば生死に関わる惨事になる。リハー...全文を読む

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向かい風を行く 37

第四章

2017.07.03 (Mon)

 夕映えの空に雲がたなびき、拝殿の屋根の飾り金具も西日に眩く照り映える頃。日が暮れるまで祭りの準備に追われていた町内会の人々もはけていき、森閑とした境内には、筧と美貴と甲斐を含めた数人の新人だけが残っていた。 新人は祭りの当日までに予備を含めて手筒花火を数本作る。今日は夜を待ってのリハーサルで、その内の一本に点火して、火花の出方や勢い等を確認する。その上で場合によっては予備の花火の火薬の量や配合を最...全文を読む

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向かい風を行く 38

第四章

2017.07.04 (Tue)

 榊原の甲斐に対する気遣いは、バイトのアシスタントに対する好意を既に越えている。単刀直入に切り出すと、榊原は間髪入れずに断言した。『好きだよ。ミキ君が言う、そういう意味で』抑揚のない口調には、どこか挑戦的な響きがあった。思わず息を呑んだ美貴の鼓膜を、榊原の含み笑いが震わせる。『だけど、甲斐は今、ノンケに不信感だらけだし。ミキ君よりは俺の方が有利かも』「えっ……?」『ゲイにはね。やっぱりゲイじゃない人間...全文を読む

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向かい風を行く 39

第四章

2017.07.05 (Wed)

 「じゃあ、俺が試し打ちの点火する。皆、もうちょっと下がってて」煮え返るような腹立たしさが顔にも口調にも出てしまう。わかっていてもどうすることもできないまま、美貴は手筒花火に点火する着火棒に火を点けた。試し打ちには新人が作ったスペアの花火が用いられる。彼らがちゃんと手順通りに作製したのか確認する為、リハーサルでは新入り達のスペアの花火に青年団の先輩陣が着火する。そして問題なければ、本番用の手筒花火を...全文を読む

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向かい風を行く 40

第四章

2017.07.06 (Thu)

 筧は甲斐にも病院まで付き添うように言ったという。けれども甲斐は、『自分がついて行けば、また、ヨシキさんがいろいろ言われるから』と、固辞したらしい。美貴は真っ暗な待合室の椅子に座り、携帯で甲斐に電話をした。すると、コールを鳴らした直後に繋がり、急くようにすぐに告げられた。『ヨシキさん?』「……ああ、俺」『ケガは……。火傷は大丈夫なんですか?』甲斐の方から一方的に訊ねられ、美貴は思わず苦笑した。こんな風に...全文を読む

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向かい風を行く 41

第四章

2017.07.07 (Fri)

 「それに、噂バラまいたのは俺だって、お前が疑ったのもしょうがないって思ってる。たまたま、そういう情況だったんだ」『ヨシキさん……』「だけど、そんなのチャラにしてやるよ。俺の為に身体張ってくれたんだ」だから、俺を拒むなよ。最後の言葉は胸の中で声にならない声で言う。美貴は椅子の背にもたれかかって薄く笑い、真っ暗な天井を仰ぎ見た。何か見えない力があるのなら、何でもいいから縋りたい。助けて欲しいと哀訴する。...全文を読む

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向かい風を行く 42

第四章

2017.07.08 (Sat)

 「お前、また。何言って……」美貴は空笑いを響かせながら狼狽した。ついさっき電話の良さをあらためて噛みしめたばかりだが、今度もやはり電話で良かったと思ってしまう。きっと不審がられてしまうほど、顔が真っ赤になっている。今のはきっと社交辞令の延長だ。特別な意味など何もない。美貴は火照った頬を手ではたき、落ち着けと自分に言い聞かせた。明日は平日で、しかも退院時間も午前中。親も友人も仕事がある。送迎が必要なほ...全文を読む

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向かい風を行く 43

第四章

2017.07.09 (Sun)

 翌日の朝、約束の十時までに退院手続きを済ませ、そわそわしながら正面玄関を出て行くと、駐車場で片手を上げる男がいた。すらりとした長身で腰の位置が高く、頭が小さい九頭身のモデル体型。遠目に見ても、ひと目でそれが誰だかわかる。甲斐の側には日本一高価な国産車。車のボディはシルバーだ。運転する時の習慣なのかもしれないが、今日はフレームの細い眼鏡をかけている。「ヨシキさん」甲斐は駐車場から前まめりになって駆け...全文を読む

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向かい風を行く 44

第四章

2017.07.10 (Mon)

 美貴は背中から甲斐の手を払い退けつつ一喝した。助手席ではなく後部席。本当にタクシーだ。でなければ、国会議員の先生を送迎する秘書。あまりに自然にされた行為に一気に現実に引き戻され、一瞬で頭も胸も冷えていた。 それでもこれが自分に対する正直な距離感なのだろう。美貴は一人ではしゃいでいたのが馬鹿みたいだと、打ちのめされた気分になった。尻尾を振ってじゃれ寄って、突き飛ばされた犬のようにみじめだった。美貴は...全文を読む

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プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

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