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【  2017年06月  】 

向かい風を行く 5

第一章

2017.06.01 (Thu)

 「もう、それぐらいでいいよ。お疲れ」美貴は作業を終了させ、買ってきた缶コーヒーを差し出した。こんな町内行事に参加するのはきっと不本意のはずなのに、甲斐の仕事は丁寧だ。その姿勢だけは感心する。美貴は労いの気持ちを缶コーヒーで表した。「……ありがとうございます」甲斐がそれを受け取りながら腰を上げ、額の汗で腕で拭った時だった。「皆、差し入れいっぱい作って来たよー。お疲れ様ー」大声で呼びかけられ、境内に張ら...全文を読む

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向かい風を行く 6

第二章

2017.06.02 (Fri)

 「まだ先輩が皆残ってるのに、自分だけさっさと一人で帰っちゃって……」その後、美貴が家に戻って夕飯を取っていると、美貴の母親が鼻白むように呟いた。創業は江戸末期になる醤油醸造を営む家の食卓には、両親と弟の他に醸造蔵で働く職人達も同席し、母の給仕を受けている。 母屋の広い台所は、醸造蔵と一緒に長い歳月を経てきた白漆喰の古びた壁に、無垢の柱。歩くたびに軋んだ音を立てる板張りの床。天井には黒光りする太い梁が...全文を読む

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向かい風を行く 7

第二章

2017.06.03 (Sat)

 甲斐と出会って二週間ほど経った頃。週末の夜に、美貴は友人達総勢四人で自宅近くのファミレスに寄り、酒やつまみやデザートを思い思いに注文した。同席しているメンバーは、看護婦四人組との合コンに臨んだ高校時代の同級生だが、男女双方盛り上がりに欠け、結局、誰からも連絡先さえ聞けず終いになっていた。そんな不毛な合コンの愚痴を言い合い始めた時だった。「えっ……?」美貴は真向いのボックス席に座っている甲斐に気づいて...全文を読む

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向かい風を行く 8

第二章

2017.06.04 (Sun)

 その後、美貴は同伴した友人達の抗議や文句を振り切って、甲斐がいるテーブル席に移動した。甲斐の腕に張りつくように座っていた、ゆるふわパーマの茶髪少女を甲斐の正面の席に移させ、自分が隣に腰をかける。「すいませんね。甲斐と同じ町内の青年団で、こいつの世話役やってる椎名です。とにかく愛想がない奴なんで、友達からいろいろこいつの話、聞かせてもらえるとありがたいなって思ったんで」 さっきから見ていると、この女...全文を読む

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向かい風を行く 9

第二章

2017.06.05 (Mon)

 「それじゃ、榊原さん。私達、そろそろ失礼します。今日は遅くまで話を聞かせて下さって、ありがとうございました」石橋とその女友達が礼を言い、榊原も苦笑を顔に貼りつかせたまま席を立つ。そのどさくさに紛れるように帰ろうとする甲斐を美貴は引き止めた。「何だよ。俺がいつお前と約束したんだよ」肘を掴まれ、よろめきながら再びソファに倒れ込んだ甲斐に、美貴は小声で詰め寄った。「すみません。……あの、実はさっきの石橋さ...全文を読む

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向かい風を行く 10

第二章

2017.06.06 (Tue)

 着火後の手筒花火の竹筒は七百度を越える熱を発するが、演者は燃え尽きるまで、手筒を脇に抱えていなければならない。そのため麻布と荒縄を筒に何重にも巻き、太くして、演者の身体を守るのだ。だが、これを初心者がやると、大抵どこかしら不備がある。「駄目。やり直し」美貴は甲斐の作業を中断させ、巻きつけられた荒縄と筒の間に指を噛ませて言い放つ。「こんな風に縄の間に指が入るようじゃ、全然駄目。最悪、点火したら竹が膨...全文を読む

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向かい風を行く 11

第二章

2017.06.07 (Wed)

 その週末の土曜日の午後。美貴は祭りの準備のあと、足取りの重い甲斐をせっついて、甲斐の自宅までついて来た。「さすがだなあ……」瓦葺きの白漆喰塀に広大な敷地を囲われた日本家屋の豪邸だ。瓦葺きの数奇屋門からアプローチの延べ段を渡り、千本格子の玄関の引き戸を甲斐が開けた。「ただいま」「お邪魔します。こんにちは」美貴が三和土で声を張ると、奥座敷から驚いたように女性が玄関先まで駆けて来た。「……あの」薄手のニット...全文を読む

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向かい風を行く 12

第二章

2017.06.08 (Thu)

 カットの仕上がりを確かめながら鏡の中の美貴を見つめ、前髪にハサミを入れ始める。柑橘系のフレグランスと、少し汗ばんだような甲斐の体臭が近くなる。そして、意外に厚い胸板で肩を押されているうちに、美貴は尻の座りが悪いような、落ち着かない気分になっていた。「結構切ったな」などと呟きながら顔を伏せ、クロスに落ちた自分の髪を見回していると、部屋のドアが控えめにノックされた。「ちゃんと切れてますかしら? この子...全文を読む

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向かい風を行く 13

第二章

2017.06.09 (Fri)

 「出来ましたよ」と、合わせ鏡を美貴に向け、後ろ姿も見せてくれる。襟足は短くしてすっきりと。そして、トップを高く作ったダイヤモンドシルエット。前髪をやや重めに作り、レイヤーを入れたサイドをワックスで遊ばせた理想的な無造作ヘアだ。「セットはラフに乾かして、ワックス揉みこむだけですから」「スゲエな、マジで。カットだけで、こんなイメージ変わるんだ」仔猫のようだった薄茶色のふわふわ癖毛が、雑誌で見るような洗...全文を読む

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向かい風を行く 14

第三章

2017.06.10 (Sat)

 「火薬の調合まで自分達でするんだな」 その週の日曜に、榊原は神社まで作業の見学に来て感嘆した。案の定、榊原は手筒花火の神事の話も甲斐に聞かされていなかった。興味を示した榊原に美貴が誘ってやると、ふたつ返事で訪ねて来た。「火薬の調合は新人にはさせませんけどね」美貴は答えつつ、和紙の上で山にした火薬の粉に銀色の鋳鉄(さてつ)を混ぜ込んだ。この鋳鉄は火が点くと、線香花火のように繊細に枝分かれしながら破裂...全文を読む

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プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

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