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【  2017年06月  】 

向かい風を行く 15

第三章

2017.06.11 (Sun)

 トクンと大きく一回跳ねた心音が、そのまま早鐘を打ちつける。腕の肉に食い込んできた甲斐の指に心臓まで鷲掴みにされ、呼吸が止まりそうになる。「甲斐、ミキ君。良かったら、このあと飯でも食って行く?」その後、榊原に食事に誘われたものの、美貴は先約があったため、ぎくしゃく笑って断った。榊原に握られた時は何も動揺しなかった。むしろ同じ男として誇らしかっただけなのに。どうして甲斐だとこんなにも、心が乱れてしまう...全文を読む

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向かい風を行く 16

第三章

2017.06.12 (Mon)

 その日の夜、筧(かけい)と呑んで帰宅した美貴は榊原のSNSを、ひと目みるなり憤慨した。彼が甲斐との寿司屋でのツーショットを嬉々としてアップしていたからだ。しかも、二人がいるのは、いかにも敷居の高そうな高級店のカウンター席。二人の手元にはサシの入った大トロや、ウニやイクラの軍艦巻が映っていた。「あの野郎。ガキのくせに、こんないい店入りやがって」美貴は歯噛みしながら甲斐をコメントで叱りつけ、今度は自分...全文を読む

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向かい風を行く 17

第三章

2017.06.13 (Tue)

 「だったら、お前もガンガン誘えばいいだろう。百回に一回ぐらい、ついて来るかもしんねえぞ?」筧は美貴に、愚にもつかない慰めを口にした。「そこまでプライド捨てたくない」筧の顔を恨みがましく睨みつけ、不貞腐れたまま背を向けた。夕映えに染まる神社の境内に外灯が青白く点されて、祭りの準備に追われる男達を墨色の影にした。 もちろん自分も誘えばいいことぐらいわかっている。それなのに、誘っても悪い予感しかしなかっ...全文を読む

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向かい風を行く 18

第三章

2017.06.14 (Wed)

 「おー、お疲れー」筧も少し後から裏参道にやって来た。石灯籠に蝋燭の火を点しつつ、参道の両脇に並ぶ普段の幟(のぼり)を、祭り用に代えてくれれば帰ってくれていいと言う。筧は指示だけ残して忙しなく去り、美貴はひとり、裏参道に残された。「……さっさとやって帰るか、俺も」とりあえず、普段の幟を外しにかかった時だった。社殿の方から向かって来る見慣れた男の影がある。美貴は俄に鼓動が逸り出すのを感じながら、抜いた幟...全文を読む

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向かい風を行く 19

第三章

2017.06.15 (Thu)

 だが、美貴が呆けているうちに、甲斐は参道を逸れて鬱蒼とした雑木林の手前まで行き、肩越しに淡々と告げてきた。「俺が抜いていきますから、ヨシキさんは祭り用の幟を入れていって下さい。その方が早いでしょう?」「あ、……あ。そうか。そうだな。わかった」初めて甲斐にリードされ、祭用の幟を慌てて抱え持ち、言われるままに駆け寄った。 どうやら手伝ってくれるつもりらしい。だが、一体何があったのか。どういう風の吹きまわ...全文を読む

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向かい風を行く 20

第三章

2017.06.16 (Fri)

 青年団の間で甲斐の印象が悪いのは、わかっている。甲斐の御目付役として、暗に自分も非難されているはずだ。時には甲斐の単独行動に、バツの悪い思いもする。それでも少しずつ話せるようになってくると、通じ合った気持ちの分だけ、甲斐を大切にしたくなる。自分が非難されれば済むだけの話なら、甲斐が嫌だと思うことは、できれば無理強いしたくない。指導は指導だ。矯正じゃない。何かを伝える過程において相手を矯正までする権...全文を読む

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向かい風を行く 21

第三章

2017.06.17 (Sat)

 それであんなに他人を避けていたのかと、美貴はようやく腑に落ちた。甲斐に対して感じていた多くの疑問がそれぞれ線で繋がった。美貴はそうだったのかと言おうとした。そうだったのかと思っている自分がいた。それなのに頭と口と感情が分断され、思い通りに動かない。そうなんだ。一言そう言えばいいのにと、頭ではわかっていた。それがまず声になって出なかった。わだかまりは解け、納得した。頭はすぐに言われたことを理解した。...全文を読む

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向かい風を行く 22

第三章

2017.06.18 (Sun)

 「これ、収納庫に持って行って帰りますね。ヨシキさんもお疲れ様でした」「……あっ、そうか。そうだな。……ありがとう」美貴はまだ自分の声が上擦るのを感じていた。甲斐の一挙手一投足に反応し、身構えている。腰が引ける。そんな自分を見下ろす甲斐の顔には、深い諦念が浮かんでいた。微笑みをたたえた口元に濃く染みついた寂寥感。失望を無理やり飲み込んだような顔をして、甲斐は美貴に背を向けた。その背中が刻一刻と遠ざかる。...全文を読む

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向かい風を行く 23

第三章

2017.06.19 (Mon)

 「だって今日、バイトないんだろう?」尖った声が震えるほど、心臓がバクバクいっていた。まだ息も微かに弾んでいる。だが、それも慌てて走ったせいにしたかった。甲斐に何も答えずに黙っていたのは拒絶じゃない。一度に全部吐露されて驚いただけだ。それだけだ。お前を拒んだんじゃないんだと言いたかった。伝えたい。その為だけに闇雲に甲斐を誘ってしまっていた。 それなのに甲斐はといえば息を詰め、瞠目したまま、こちらを見...全文を読む

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向かい風を行く 24

第三章

2017.06.20 (Tue)

 それなら行きたい店があると、言い出したのは甲斐だった。『あの横断歩道を渡って』『右に行って』『少しこのまま、まっすぐに』『こっちを左に入ったら、すぐ』など、ルートナビよりそっけなく甲斐に案内されながら、美貴は黙ってついて来た。何といっても甲斐は祖父の代から遠戚に至るまで議員だらけの政治家一族の坊ちゃんだ。学生の甲斐に支払いを任せるつもりはなかったが、美貴は心持ち不安になる。外灯もまばらで人通りもな...全文を読む

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プロフィール

坂東蚕

Author:坂東蚕
BL小説書き。
小説ディアプラス第27回チャレンジスクール編集部期待作・第1回BL小説大賞編集部期待作受賞。
お仕事ものや、和風、明治大正昭和レトロなBL好き。

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